日本製紙、資産売却で資金捻出とROA改善

日経新聞の報道によりますと、日本製紙が2018年3月期までに資産売却で800億円前後の資金を捻出する予定だそうです。

ここまでの資産売却が順調に進んでいるために、従来の目標であった約500億円からさらに金額を上積みする方針とのこと。

そのなかには、持ち合い株として保有している資産も売却処分の対象となるようで、売却によって得た資金は、M&Aの目的で投下し、資産効率を高める狙いがあります。

持ち合い株など、余剰資産を売却することで、得た資金を将来有望な投資案件にどんどん振り向け、収益性を高めることができれば、それは会社にとっても株主にとっても歓迎すべきことですね。

なお、財務分析の理論上、会社の総資産の有効活用度をトータル的に判断する指標として、ROA(総資産利益率)があります。

英語で「Return On Assets」といいます。

一般的によく用いられる計算式は次のとおりです。

ROA=(経常利益+支払利息)÷(平均総資産)

日本製紙は、この値が2015年3月期で2.2%だったのを2018年3月期には3.7%にまで高めたいという意向があるそうですね。

ところで、ROAの計算式のうち、経常利益というのは、損益計算書の利益のうち、本業で得た利益(営業利益)に、

・本業以外の活動(営業外活動)で得た収益を足し、
・本業以外の活動(営業外活動)でかかった費用を引いて

求められた利益です。

会社の総合的な稼ぐ力を示す利益ですね。

営業外活動の代表例は資産運用や資金調達などの財務活動です。

そのほかにも、自販機を設置して得た飲料水の販売に伴う副業の収入とか、販売活動以外の費用(雑損失)など、いろいろあります。

ここで、ROAの算定上、なぜ、経常利益に支払利息を足すのかについての説明はあとに譲るとしまして、まずは計算式の分母に当たる平均総資産の意味を考えます。

平均総資産=(期首の総資産+期末の総資産)÷2

資産は、一年を通じて少しずつ増えていきます。

いっぽうで、利益も一年を通じて少しずつ増えていきます。

ということは、当期のはじめの方の利益は期首の資産から生まれており、そこから利益の分も含めて総資産が膨らんでいき、期末に近い総資産からは期末に近い利益が生み出されます。

このように、分母を単純に期末の総資産としてしまうと、実態からかけ離れてしまうので、より正確にROAを求めるには、期首と期末の平均総資産によるほうがより妥当だろう、という考えがあるのですね。

いっぽう、分子の経常利益に支払利息をたす理由は次の通りです。

総資産の調達方法として、負債で調達する方法と純資産(資本金や利益)で調達する方法がありますが、ケースバイケースで、負債の割合が多くなったり純資産の割合が大きくなったり、全ての企業が同じ状況であることは考えられません。

そのようなときに、負債が多い会社は支払利息が大きくなり、負債が少ない会社は支払利息が小さくなるので、同じ収益力の会社であっても、負債の比率で経常利益の額が影響を受け、ROAの計算結果が変わってくるのは分析上望ましくない、という発想があるのです。

事例で説明しましょう。

(事例1)
総資産1000=負債200+資本800のバランスシートの会社があるとします。
負債200がすべて借入金だとして、借入利率が年5%ならば、年間の支払利息は200×0.05=10となります。

当期の営業利益が100、支払利息以外の営業外損益が+10だとすると、当期の経常利益は次のようになります。

(損益計算書)
**:
営業利益100
支払利息△10
その他**10
-------
経常利益100

ROA=100÷1000=10%と計算できます。

つぎに、事例2をご覧ください。

(事例2)
総資産1000=負債800+資本200のバランスシートの会社があるとします。
負債800がすべて借入金だとして、借入利率が年5%ならば、年間の支払利息は800×0.05=40となります。

当期の営業利益が100、支払利息以外の営業外損益が+10だとすると、当期の経常利益は次のようになります。

(損益計算書)
**:
営業利益100
支払利息△40
その他**10
-------
経常利益*70

ROA=70÷1000=7%と計算できます。
以上を見てもわかるとおり、借り入れが多い方が支払利息の負担が大きくなるため、資金調達方法の違いでROAの計算結果にズレが出るのはうまくないだろう、ということから、経常利益に支払利息を足し戻してROAの計算を行うのです。

そのように計算すると、上記の事例1および事例2はいずれもROAが11%となるのがわかりますね。

(事例1)(100+10)÷1000=11%

(事例2)( 70+40)÷1000=11%

今回は、少し専門的な立場におけるROAの計算方法をご紹介しました。

難しいと感じたならば、経常利益をそのまま使ってROAを求めることもあるので、そのような計算方法で比較分析してもOKです。

要は、一貫性を持って分析をすることが大事なのですね。

以上、ROAに関する話題でした。

(日経15*8*19*15)

柴山式簿記講座受講生 合格者インタビュー
商品に関するご質問・ご相談はこちら