東芝、インフラ工事で不適切な会計処理の可能性
6月3日に、東芝は「特別調査委員会の設置に関するお知らせ」という表題のニュースリリースを公表しました。
→ http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20150403.pdf
これによると、東芝の2013年度における一部インフラ関係の工事進行基準に係る会計処理について、調査を必要とする事項が判明したということです。
一部案件における工事進行基準の見積の合理性に問題があると見られているようです。
新聞報道によると、原価の過小見積の可能性がある、と書かれていますが、それが何を意味するのかは、1カ月程度と予定されている調査機関が終わったあとの発表を待つことになりそうです。
この発表を受けて、6日の東京株式市場で東芝の株が大幅に下落しました。
前週末に比べて9%安の466円30銭まで売られ、約2カ月ぶりの安値をつけました。
終値は5%安の487円40銭だったそうです。
ここで、今回のメインテーマとなっている工事進行基準について、簡単に説明いたしましょう。
——————————–
【工事進行基準】
長期請負工事の会計処理の一方法であり、工事が未完成の段階で決算日を迎えた時に、決算日までの工事の進行度合いを見積り、そこまでの進捗率(しんちょくりつ。進行度合いのこと)にあわせて、請負金額の一部を売上高として計上する会計方法のこと。
——————————-
現在の会計ルールでは、原則としてこの工事進行基準を採用することになっている。
なお、これに対するもうひとつの会計方法として、完成・引渡しが完了するまでいっさい未完成段階で、売上を計上しない「工事完成基準」がある。
——————————-
(計算例)
A社は建設会社である。2015年4月1日に期間3年の長期工事を請け負った。請負金額は60億円で、見積総原価は40億円だった。
(1)2016年3月決算で、原価16億円を計上した。
(2)2017年3月決算で、原価14億円を計上した。
(3)2018年3月に工事が完了した。原価は11億円だった。
なお、工事進行途中で総原価の見積の変更はなかったとする。
——————————-
(1)2016年3月期の完成工事高(売上高)
1.工事進捗率
原価16億円÷総原価40億円=40%
2.完成工事高
60億円×40%=24億円
3.工事利益
24億円-16億円=8億円
(2)2017年3月期の完成工事高(売上高)
1.工事進捗率
原価(16+14)億円÷総原価40億円=75%
2.完成工事高
60億円×75%=45億円…2期合計
45億円-24億円(2016/3)=21億円(2017/3)
3.工事利益
21億円-14億円=7億円
(3)2018年3月期(完成期)の完成工事高(売上高)
1.完成工事高(請負額-過去の売上額)
60億円-(24+21)億円=15億円
2.工事利益
15億円-実際原価11億円=4億円
以上となります。
なお、工事完成基準の場合は、次のような金額となります。
(単位:億円)
2016年3月期
売上高0、売上原価0、利益0、
2017年3月期
売上高0、売上原価0、利益0、
2018年3月期
売上高60、売上原価41、利益19、
という計上になり、完成した事業年度に一気に計上します。
このように考えると、工事進行基準の方が、工事進行過程における進み具合が売上や利益に反映させられるので、実態をより忠実に表しているように思えますね。
ただ、問題になるのは、売上高を決定づける工事進捗率の算定に恣意性(不正の意図)が入ると、不正の経理につながります。
たとえば、上記の計算例で、現場では総工事原価の見積額が40億円とわかっているのに、あえて見積額を32億円とかにしたら、2016年3月の原価16億円に対して、進捗率が50%に跳ね上がってしまい、売上高も60億円×50%=30億円のような課題形状にもつながりかねないのです。
見積もり要素が多い工事契約の売上計上について、神経を尖らせることになるのは、道理なのですね。
以上、東芝の株価下落に関連したインフラ工事の会計処理と工事進行基準の考え方の基礎知識でした。
(日経15*4*7*15)