アベノミクスと、消費増税不況のシナリオ

会計は、経済の結果を映し出す鏡であり、経営者の通信簿であります。

つまり、最初の段階では、「経済が先、会計が後」なんですね。

経済がしっかりしないと、会計だのなんだの言っても仕方ないのです。

とはいえ、将来の経済のかじ取りをするに際しては、過去の経済の結果である会計数値をタイムリーに入手して、それを現状分析と判断に役立て、迅速に次の一手を打つために活用する必要があるため、いったん経済活動の中に会計データが入りこんだら、経済と会計は互いに循環して上昇していく「らせん階段の関係」として絡み合っていきます。

過去の経済活動

<集計>

直近の会計データ

<計画の見直し、活動の調整>

次の経済活動(調整後)

次の会計データ

その次の経済活動(調整後)

その次の会計データ
 :

つねに過去の経済活動の結果を会計データで検証し、それをもとに次の経済活動を改善するために手を打つ、この繰り返しでビジネスが成り立っています。

さて、昨今よく日経新聞などでさかんに報道される「株高」と「円安」について考えてみます。

「アベノミクス」という言葉が登場しましたね。

個人的な感想をいわせてください。

この言葉を見聞きするたび、わたしはイヤな予感を覚えます。

「そんなに楽観的で、これから数年後は大丈夫だろうか…」

社会制度の変化は、時として企業の業績を突然、根こそぎ転落させるきっかけとなって、企業の経営者にのしかかってきます。

少し前の事例で行くと、グレーゾーン金利です。

それまでは、なんとなく良くないな~と感じながらも、大手消費者金融機関を中心に、グレーゾーンの金利を取っても、おとがめなしでした。

でも、ぶっちゃけ、本気で規制されたヤバいよね、という漠然とした不安感はあったはずですが、とりあえず今は大丈夫だろう、みたいな根拠のない現状維持への期待が、あの業界のその後を決定的に変えたと思っています。

世の中を見渡すと、これまでの慣習で、「ちょっと不安だけどOK」的なものは、まだまだたくさんあることでしょう。

もうひとつ、私が以前仕事をしていた大手専門学校の事例です。

司法試験ビジネスという分野があったと思います。

旧司法試験は、とても難しくて、これを合格目標にした教育指導ビジネスが、一定規模のマーケットを維持していました。

それを主力として、100億円単位の売上を上げていた教育期間もありました。

しかし、時代がロースクール制に移行するとともに、旧来の司法試験受検ビジネスは当然のごとく衰退の憂き目にあいます。

制度の変更は、それに関連する多くの企業の運命を変えます。

そして現在。

あなたもわたしも決して無関係ではない、すべての日本経済にとても大きな影響を与えるであろう社会制度の変更があります。

そう。2014年4月と2015年10月に立て続けに実施される消費税率のアップです。

これで、本当に税収があがると、あなたは本気で考えますか?

消費税率が5%上がるということは、一律、消費財が5%値上げされますよ、と今から全国的に宣言されているようなものです。

まず、まともな経済感覚を持っている主婦やサラリーマンなど、庶民としての社会人が今までと同じ消費行動を取るとは、とても思えません。

財布のひもは固くなるでしょう。

それが経済というものです。

なぜ、日経新聞などで、超大手の上場企業などが消費税アップをむしろ歓迎するような報道がされるのでしょうか。

輸出主導型の企業は、それほど痛くないからですね。

自分にはあまり関係ない、と…。

むしろ、国内でしか商売できない下請けとか、中小・零細企業にとって大打撃です。

価格転嫁できないかもしれないから…。

経済プロセスは、複雑です。

かならず、消費税率アップのしわ寄せをどこか特定の集団層がまともに受けることになります。

そのうちの一つが最終消費者、もっと悲惨な状況になる危険が高いのが個人事業者と中小事業者です。

消費税は、赤字でも払わなければならない税金だ、ということをいったいどれほどの事業者が本気で自覚しているでしょうか。

過去2回の消費増税では、2回ともその後、税収が大幅ダウンしています。

〇1989年(0→3%)

税収:
(1989)54.9兆円
(1990)60.1兆円
(1991)59.8兆円
(1992)54.4兆円
(1993)54.1兆円
(1994)51.0兆円
(1995)51.9兆円
(1996)52.1兆円

〇1997年(3→5%)

税収:
(1997)53.9兆円
(1998)49.4兆円
(1999)47.2兆円
(2000)50.7兆円
(2001)47.9兆円
(2002)43.8兆円
(2003)43.3兆円
  …

(2007)51.0兆円
(2008)44.3兆円
(2009)38.7兆円

(2011)42.8兆円

※2007年~2009年にかけての大幅な税収の落ち込みは、リーマン・ショックによる理由が大きいと考えられる。

以上、2回の消費増税の歴史を見ると、増税した年度の前後だけは、一時的に税収がアップしていますが、その後の中期的な推移(3~5年程度)をみると、驚くべきことに、いずれも10兆円近くも税収が激減しています。

ちなみに、その時に合わせて起きた経済現象としては、1990年以降はバブル崩壊、1998年以降はアジア通貨危機などがあるので、それの影響を無視してはいけない、という意見もあり、消費税率アップは景気にそれほど影響はないはずだという考えもあります。

ただ、消費税率アップ後に10兆円近い税収減が2回連続、すなわち100%の確率で過去2回は起きている、という歴史的事実を無視することはできないと思うのですね。

で、こういった現実から目をそらすには、「アベノミクス」という言葉は、とても耳触りがいいです。

もちろん、現在の景気持ち直し感(一部かもしれませんが)が本流となって、2014年以降の消費税2連発アップの逆風をものともしないという状況になってくれれば、万々歳です。が…。

「いい方を予測して、悪い方に転ぶ」よりも、「悪い方を予測して、良い方に転ぶ」方が、ただしい処世術となりますので、ここは悪い方の予測を想定して、今のうちに個人レベルまたは企業レベルで備えておくべきではないかと思いますよ。

現在、会計事務所業務の方で、いろいろな企業の決算書を拝見します。

場合によっては、顧問先の会社さんの信用管理の指導として、取引先の財務状況を拝見しますが、業績の悪いところはほぼ例外なく試算表の作成が遅い、前期の決算をまだ出していない、など、経理レベルが低いです。

担当する税理士さんの質の良しあしも影響していますが、このような状態の会社が予想以上に多いので、ちょっと驚いています。

来年以降の消費増税2連発は待ったなしですよ。

今、経理レベル、会計知識レベルを上げなければ、2~3年後の消費増税不況という悪い方のシナリオが仮に現実化した時に後悔しても、すでに手遅れになります。

備えあれば憂いなし。

今回は、日本全体の社会制度に影響を及ぼす消費増税に関する準備の必要性についてお話しいたしました。

柴山式簿記講座受講生 合格者インタビュー
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