為替ヘッジの外国債投資信託が前年比2.7倍(日経夕13*2*18*1)
外国為替市場で円安・ドル高が続いている中、将来の円高転換への損失発生を回避(ヘッジ)するタイプの外債投信(外国債投資信託)が伸びています。
ドイチェ・アセットマネジメントによると、為替ヘッジ外債投信の純増は2012年12月において前年同月比5.6倍の3375億円となり、過去最高を更新したそうです。
それ以降も高水準の投信設定額が続いています。
たとえば1ドル80円のときに1万ドルの外国債を購入したとして、円安で1ドル90円になれば、ドル保有者の方が強い通貨を持っているわけですから、円との関係でその価値は上がります。
具体的には、(90-80)円×1万ドル=10万円 の為替相場変動に伴う利益(為替差益)が手に入ります。
このように、外国債などの外貨建資産を持っている場合、円安が進んでいるあいだは為替差益を享受できますので、問題はないです。
しかし、未来永劫、円が下がり続け、ドルなどの外貨が上がり続けるというのは現実的にありえないですから、どこかで円高への流れに変わることとなります。
ここで、1ドル95円のときに1万ドル購入し、それが1年後に85円の水準まで円高になってしまったら、反対に(85-95)円×1万ドル=▲10万円ですから、10万円の為替差損をこうむることになります。
やはり、将来の円高へのトレンド転換による損失の発生は避けたいところですから、これに対して何らかのヘッジ手段(回避手段)を講じておきたいところですね。
そこで登場するオーソドックスな手法として、「為替予約」という取引があるわけです。
【為替予約とは】
1.「将来」の一定時点における
2.一定量の「外貨の売買価格」を
3.「特定の取引相手」と
4.「合意の上決めること(=契約)」のことである。
ポイントは4つです。
「将来」の
「外貨の売買価格」を
「特定の相手」と
「決める」こと
ですね。
いわゆる「先物取引」との大きな違いは、3番目の「特定の相手」と行う相対取引である点です。
先物取引は不特定多数者が参加する市場取引ですから、経済的な取引の意味や価格の決定プロセスが異なります。
ご参考まで。
今回の外債取引に当たっては、将来、その外債を売却して円転した時に
円高になっている、すなわち「外債の売却代金として受け取る外貨が弱くなっているため、円転した際に受け取る円が目減りする」という事態を避けることが目的ですから、
★ドル売り(外貨売り)・円買いのレートを
★今のうちに決める約束をする
ということになります。
つまり、ドルないし外貨の売り予約です。
さきほどの95円で外債を購入したケースを考えてみると、
将来の円高を想定して1ドル93円くらいで将来のドルを売り、円を買う「売予約」を1万ドル分行ったとすれば、たとえ将来の外債売却時に実勢相場が1ドル85円になったとしても、当初の約束通り1ドル93円で1万ドル分円転できますので、損失はかなり限定されますよね。
これが、為替リスクのヘッジ効果と言われるゆえんです。
「はなしはわかった。でも、なんで将来の予約レートが1ドル95円じゃなくて1ドル93円なの?」
「2円の目減り分は相手(銀行など)への手数料なのか?」
こういった疑問もわきますよね。
じっさいには一部、手数料的な意味合いも含まれますが、その基本的な内容はおおむね「ドル(外貨)と円の金利差」です。
たとえば、ドルの年利が3.2%であり、円の年利が1.0%だったと仮定しましょう。
1ドルを1年間預けるなどして運用して、1年後に1.032ドルとして受け取ったと考えてください。
もしも今の為替予約レートが当初の実勢レート95円と同じだとすると、予約を95円で行ってドルで1年運用すると、円で95円1年間持っていた場合と比べ、次の額だけ儲かります。
(A)1.032ドル×95円=98.04円
(B)95円×1.01=95.95円
(A)-(B)=2.09円
もしも1万ドル、1ドル95円で為替予約して1年間ドルで運用して1年後に円転しただけで、2万900円も儲かることになります。
これなら、みんながこぞってドルの売り予約に殺到しますね。
【ポイント】
外貨の金利が高い場合、現在の為替レートと同じレートで外貨の売り予約をすると、金利差で儲かってしまう。
これは自明です。
「金利の高い方の通貨で高い金利を稼ぎ、今と変わらないレートで自国通貨と交換すれば、金利差の分だけ外貨が増えているので儲かる」
しかし、そこは自由市場経済ですから、みんなが「売り」に走ったら、その商品は値下がりするというあたりまえの経済原理が働きます。
したがって、「ドル売り予約」が殺到すれば、とうぜん、「ドルの予約レート」は下がります。
つまり、予約レートは「ドル安円高」に向かうわけです。
じゃあ、どこまでドルが下がり、円が上がるかといいますと…
「1ドル×1.032%=1.032ドルを将来円転しても、95円×1.01%=95.95円と変わらない受け取り額になるまで」
です。
つまり、
95.95円/1.032ドル=92.9748…
ここではおおざっぱに小数点第1位で四捨五入して、1ドル93円あたりで1年後の1.032ドルを円転するならば、これ以上のドル売り円買い予約は進まないだろう、という予想ですね。
なぜなら、1ドル92円の為替予約をしてしまうと、次のように損してしまいますから。
1.032ドル×92円=94.944円<95.95円(円運用1%で1年後)
こんなわけで、経済学の基本的な原理を応用すると、為替予約レートの理論値がいちおう導き出せます。
日商簿記1級の為替予約で「振当て処理」という特殊な会計処理がありますが、そのさいに出てくる「金利差が何ちゃらかんちゃら…」というお話の背景には、こんな原理が潜んでいたのですね~。
為替予約レートを考える際のヒントになれば幸いです。
ともあれ、為替リスク回避のための外債投信には、このような為替予約のしくみが盛り込まれている、ということをご理解いただければよろしいかと思います。