円安で経常利益が5300億円も改善?(日経13*2*11*1)
日本経済新聞社が2月8日現在で1373社の決算を集計したところ、2012年4月12月の第3四半期決算に際して、前年同期比でなんと5300億円も為替相場の変動に伴う損益が改善していることがわかりました。
かんたんにいえば、外貨ベースの資産が「外貨高の円安」となり、一年前よりも評価が膨らんだということです。
2011年4月~12月…為替差損益▲3800億円(為替損失)
2012年4月~12月…為替差損益+1500億円(為替差益)
つまり、一年前の同時期には、円高による外貨資産の目減り額が3800億円もあったために、企業の経常利益ベースにおける業績の足を引っ張っていたが、直近では円安で外貨資産が1500億円ほど円建てで膨らみ、経常利益を押し上げる効果に転じたのですね。
円安(外貨高)で資産が増えた主な事例としては、任天堂の外貨建て現金預金222億円の評価増、ユニ・チャームの海外貸付金23億円の評価増などが挙げられています。
これが会計的にどのような意味を持っているのでしょうか。
たとえば、2万ドルで自動車を一台海外向けに売り上げたとしましょう。
輸出時の為替レートが1ドル80円だったとします。
この場合、仕訳は次のようになります。
(借方) 外貨売掛金 160万円 (貸方) 輸出売上 160万円
その後、外貨売掛金を回収しないまま決算日を迎えたと考えてみてください。
決算日の為替レートが1ドル90円に変化したと仮定します。
(借方) 外貨売掛金 20万円 (貸方) 為替差益 20万円
※(決算日レート90円-取引日レート80円)×2万ドル=20万円
…為替相場の変動に伴う資産の評価増=儲け(為替差益)
この場合、現金預金や売掛金(未回収の売上代金)や貸付金、売買目的の有価証券などは、決算日時点で換金したらいくらの円で資金回収できるか?という情報が投資家にとって重要なので、最新の為替レートである「決算日の為替相場」をもって円換算します。
現金預金や売掛金や貸付金や売買目的の有価証券など、将来貨幣で回収される予定のものは「貨幣性資産」といいまして、貨幣性の項目は決算日レートで換算しましょうね、というのが現行の企業会計ルールです(日商簿記1級レベル)。
このような考え方を「貨幣・非貨幣法」といいます。
現在の外貨建て資産・負債の円換算は、貨幣・非貨幣法の考え方をベースとし、これに若干の調整を加えて実務運用しているとお考えいただければよろしいでしょう。
これ以上は専門的になりますので、精密な議論は避けますが、おおざっぱには「貨幣項目は決算日レート」、「非貨幣項目は取得時のレートのまま」で円換算し、バランスシートに表示するのですね。
ここで日経新聞が問題にしているのは、「貨幣項目の外貨建て資産」が、外貨高(円安)になったため、外貨ベースの資産の評価が上昇したという趣旨のことなのです。
反対に、外貨建ての買掛金(仕入れ代金の未払い)や外貨建ての借入金や社債を負債として計上している場合には、円安によって負債の負担が増大します。
この時に生じる為替相場の変動に伴う差額は、損益計算書において「営業外収益」または「営業外費用」という表示区分に記載されます。
利益が上がれば「為替差益」、利益が減れば「為替差損」と呼ばれます。
営業利益には影響しませんが、営業外損益を構成するので、経常利益とその下の当期純利益に大きく影響しますよ~。
【結論】
「円安」のときは、
「外貨資産は評価アップで為替差益」、
「外貨負債は負担の増大で為替差損」、
為替差損益は経常利益と当期純利益に影響する!
と覚えておきましょう。
なお、もうひとつ、同紙面で触れていた自己資本13兆円アップの影響については、無用の混乱を避けるために、あまり深入りしないほうがいいと思います。
為替差益による自己資本の増加もありますが、連結決算の場合、子会社の資本を円換算する際に生じる、ややこしい差額として「為替換算調整勘定」というわけのわからない項目が出てきます。
これは、日商簿記1級以上を学習すると出てきます。
「その他の包括利益」のひとつとも言われていますが、ここまできて「???????」となると思いますので、為替差損益のところだけでOKと考えておくのが無難です。
結局、日経新聞の会計記事を100%理解しようと思ったら、日商簿記1級レベルの知識が、ところどころで必要になるということですね。
日経新聞が難しいと感じる大きな理由の一つです。
ここは、実務的にも重要であり、比較的イメージしやすい為替差損益だけでも、わかっていただければOKです。
「為替換算調整勘定」のお話は、1級以上を本格的に学習される方限定で、
ご興味を持っていただければ十分だと思いますよ。