住友化学、固定費100億円削減(日経13*2*2*10)
住友化学は、2015年9月までに主力の千葉工場のエチレン生産設備を停止すると1日に発表しました。
「千葉工場における石油化学事業の再構築について」2013.2.1
(参考)http://www.sumitomo-chem.co.jp/ir/
国内における自社工場のエチレン生産の撤退を行い、国内で最も新しく大型の京葉エチレン(住友化学の持ち株比率22.5%)からの調達に一本化するのだそうです。
こういったエチレン生産撤退などを柱として、100億円程度の固定費削減を目指していると報じられています。
【基礎知識】
・変動費
…生産設備の利用度合い(操業度という)の増減に比例して増加又は減少する費用のこと。
※損益分岐点分析の場合には、売上高または販売数量に比例するかどうかという意味に、さりげなく変動費の意味合いが変えられるが、それをまともに指摘したテキスト・基本書をこれまで一度も見た事がない(柴山注)。
変動費は、売上に対しておおむね一定率で発生すると考えられるが、たとえば3年とか5年前と比較すると、じりじりと変動費の割合が増えていたりして、これがボディーブローのように営業利益圧迫の原因になっていることも多々あるが、毎年の影響は微々たるものなので、これに気付いている経営者は非常に少ない。
【基礎知識】
・固定費
…生産設備の利用度合い(操業度)の増減にかかわらず、一定額の負担額は免れない費用とされている。
※ただし、組織の中でどの管理者(社長?役員?事業部長?課長?…)の階層がマネジメントしているかにより、固定費の負担を短期的に増減できるかどうかが決まってくる。
これを固定費の「管理可能性」という。
(例)事業部長はその利益センターにおける広告費・交際費の予算決定権を持っているが、各部門の部長クラスでは広告・交際費の決定権限がない。
つまり、広告費・交際費は事業部長クラスでは予算のマネジメント(短期=1年以内の利益管理)で変動(管理)可能であるが、部長クラスでは管理できず、所与の(管理不能)固定費となる。
固定費の問題は、当初の計画案における生産・販売規模に見合った設備投資をするため、それに付随する設備費用・投資額・人件費・諸経費と言ったもろもろの固定費が計画生産・販売の規模に応じて大きくなることにあります。
この計画生産・販売規模とほぼ同等以上の実績を達成している(操業度100%以上)ならば、固定費をすべて回収するだけの収益を上げていると考えられ、問題ないです。
しかし、昨今の成長停滞状況で、当初の計画通りに生産・販売が進まないと、器に見合った収益があげられず、遊休設備が発生しても、それに応じた固定費は計画通り垂れ流されるので、
「遊休設備となったために遊んでいる時間×固定費率=操業ロス」
となるのです。
操業ロスは原価計算用語では「操業度差異」と呼ばれます。
この操業ロスがでかい。
設備の稼働率が90%とするならば、裏を返せば「計画した稼働時間の10%は遊休しており、その分計画していた固定費の10%は回収できていない」と言う状況を意味するからです。
仮に年間500億円の固定費を見込んでいるならば、10%の操業ロスによって50億円の固定費が「遊んでいる設備」にじゃぶじゃぶと垂れ流されているといっていいでしょう。
だから、固定費は景気低迷時には経営の足を引っ張る「金食い虫」になるのです。
この固定費をいかに「変動費化」するか、「外注の内製化」などで付加価値利用化するかなど、中長期的な固定費の有効化を考えるのが社長・役員の仕事なのですね。
住友化学の場合、今回のエチレン国内撤退などで、100億円の固定費を削減する見込みとのことですが、ここでも当然のごとく、その工場にいた人たちのその後の問題が出てきます。
この点、報道を見る限りの情報による判断ですが、この生産停止に伴い、高機能品を生産する他の拠点に最大250人を配置転換するということです。
千葉工場の従業員数が約1000人なので、残りの4分の3はどうなるのだろうと、ふと人ごとながら考えてしまいますね。
750人分の人件費と言えば一人600万円と仮定したら年間45億円の人件費です。
会計の知識が身に着くと、こういったことにも想像力が働くようになりますね。