三菱電機、防衛省へ経費水増し請求で500億円返還?(日経12*12*20*1)
本日の日経新聞朝刊の一面に、三菱電機が防衛省への防衛装備品などの経費を過大請求したとして、500億円もの大規模な代金返納に発展しそうだということです。
防衛省のホームページでは、つぎのような興味深い発表がサイト上でなされています。
「三菱電機(株)等による過大請求事案に係る過払い額算定要領の公表について」
⇒http://www.mod.go.jp/j/press/news/2012/10/31c.html
新聞やこのサイトの公表内容などを拝見すると、受注した業務の作業内容が見積を下回った場合などに、他の業務の作業時間を振り替える手口で経費を水増し請求していたというお話です。
…さて、ここまでお読みになって、「????」と頭の中が混乱した方もいらっしゃるかもしれませんね。
「意味がわからん…」
一部の方は、このように思われたでしょうか。
ちなみに、三菱電機と言えば日本を代表するメーカーのひとつです。
メーカーと言えば制度としての原価計算を厳密に行い、それをもとに製品の原価や販売価格(つまり請求額)を決めているという側面があるはずです。
つまり、日商簿記2級や1級で学ぶ「工業簿記」「原価計算」の知識をフルに使って経理業務や営業業務に役立てているはずなんですね。
ここで、三菱電機の有価証券報告書を拝見し、その会計方針を確認してみました。
具体的には、個別財務諸表のうち、原価の内訳を報告する「製造原価明細書」というものを見てみます。
すると、注記事項の中に、原価計算の方法として次のような記述がみられました。
「…製作所の実情に応じた計算法、大別すると注文品生産工場にあっては、当該品の原価を直接計算する個別原価計算法、貯蔵品生産工場にあっては、主として工程別又は組別原価計算法による。」
ここで、注目すべきは「注文品生産工場にあっては、当該品の原価を直接計算する個別原価計算法」という表現です。
個別原価計算とは、洋服のオーダーメイドや、船舶や、建設業におけるビルのように、1件ごとの製品に個性があり、製品一つごとに材料費・労務費・経費といった原価をこまめに集計するという原価の計算方法なのです。
受注ソフトのIT企業も、個別原価を集計します。
個別受注形態は、コンサルティング業やセミナー講師業などでも、あてはまりますので、案件別に材料費や労務費や経費を集計することで、案件ごとの個別原価の集計と個別収支の業績管理をするのが望ましいですね。
これに対し、たとえば紳士服のコナカとか青山のように「標準品を市場の需要予測に基づいて大量生産する」という形態では、総合原価計算という、ざっくり計算の方法がとられます。
具体的に原価計算に関する基礎知識を、たった8時間で網羅的に身につけたい方は、次の教材をご参考になさってください。
⇒http://bokikaikei.net/2008/05/post_593.html
「原価計算実務の基本と管理会計のイロハDVD」
個別原価計算の例を申し上げます。
たとえば、わたしはこの間、四国で原価計算のセミナー講師を務めました。
遠隔地なので、前日に現地入りしますね。また、セミナー当日はだいたい6時間程度、講演します。
とすると、私の時間当たり賃金×6時間で、四国のセミナー案件に関する個別原価がひとつ、集計できます。
また、このセミナーを行うための事前準備として、レジュメをつくります。この時間も、時間当たり賃金×準備時間のコストをチャージします。
さらに、事前に電話などでセミナーの段取りなどを打合せますので、これに直前数カ月で2時間ほど合計でかかったとすれば、さらに時間当たり賃金×2時間がチャージされます。
また、うちの事務員が、セミナーの準備に必要なテキストの送付作業を3時間おこない、請求書の発行や事前連絡などにさらに2時間かかったとすると、事務員さんの時給×5時間も、四国セミナー案件にチャージしますよ。
このほか、材料費・労務費以外の経費として、交通費、レジュメの原稿の印刷代、電話代、書籍手配の送料など、いろいろとこまごまとした費用がかかりますが、これもすべて四国セミナー案件に集計します。
仮に、四国セミナー案件の受注No.(工場ならば製造No.)をA012とするならば、
受注ナンバーA012の原価計算表
1.材料費
(1) 資料コピー代 合計 ××円
(2) データ保存用USB代 ××円
2.労務費
(1) 柴山のセミナー講演(サービス提供・直接労務費) ××円
(2) 柴山のセミナー準備(段取・直接労務費) ××円
(3) 事務スタッフの支援、事務手続 ××円
3.経費
(1) 交通費 ××円
(2) 通信費 ××円
(3) 消耗品費 ××円
(4) 会議費 ××円
(5) 図書費 ××円
(6) 雑費 ××円
4.合計 計10万円(例)
このように、セミナー案件でもしも10万円という個別原価が集計されたら、これを上回る請求をしなければ利益が出ませんね。
個別原価計算というのは、このように個別受注案件で営業を行っている会社で役に立つコスト管理手法です。
このような集計をする際に、おそらく三菱電機では、ある仕事の受注案件について、防衛省の該当する案件に他の案件の原価を何らかの方法で強引に付け替え、本来はその案件の費用ではないのに、その案件の費用として原価を多めに積算して請求したような印象を受けます。
このように、個別原価計算というのは、きちんとした内部管理の体制がととのっていないと、恣意的(意図的)な原価の付け替えも決して不可能ではなく、内部の不正の可能性もでてきます。
こういった事象に注意を払うために、管理会計をしっかり学んだ会計士などは、上場企業の監査において注意深くチェックする必要があるのかもしれません。
ちなみに、三菱電機の2012年3月期有価証券報告書を見ると、売掛金(未回収の売上代金)の内訳の中で、
「防衛省1226億2900万円」
「宇宙航空研究開発機構252億5800万円」
という、多額の売上債権を抱えていることがわかりました。
防衛省だけで1226億円ですから、ここにはさまざまな背景がありそうだな、という想像ができます。
それにしても経費水増しの返納額500億円規模と言うのは、わたしたち庶民には想像もできないような額です。
軍事関連産業というのは、大きなお金が動くところなのですね。