JXホールディングス、在庫評価で利益押し上げ(日経12*10*17*15)
日経新聞の企業財務記事によりますと、JXホールディングスの2012年度第2四半期(4~9月)の連結経常利益が前年同期比で66%減の800億円強になったと報じられています。
それまでの連結業績予想では、第2四半期累計で前年同期比83.2%減の400億円とされていましたから、当初予想の2倍もの実績を記録することになりそうです。
その要因は何だったのでしょうか。
当日の記事の分析によると、在庫の評価方法と最近の原油価格の上昇が大きな原因になると考えられています。
具体的には、JXホールディングスが所有する在庫について、「総平均法」という在庫の計算方法が採用されていることで、価格上昇が在庫の期末評価に影響し、利益を100億円単位で押し上げているかのような印象を受けるわけですね。
ここで、在庫の評価に係わる重要な会計知識をご説明いたしましょう。
【在庫=棚卸資産の評価に関する計算原則】
1.期末の在庫は、「製品単価×在庫数量」で算定される。
2.期中で仕入単価に変動がある場合は、多くの場合、次のいずれかの方法で計算される。
(1)先入先出法…先に取得したものから先に払い出したと仮定して売上原価および期末の棚卸資産の評価を行う。
⇒期中の払出単価に古い仕入単価が反映され、期末の在庫に新しい仕入単価が反映される。
(2)平均法…古いものと新しいものの「加重平均単価」で売上原価および期末の棚卸資産の評価を行う。
(加重平均単価の計算例)
10個×1,000円の仕入商品と40個1,250円の仕入商品があるとする。
<加重平均単価>
(10個×1,000円+40個×1,250円)÷(10個+40個)=1,200円
<単純平均単価>
(1,000円+1,250円)÷2=1,125円
※数量の多い(ウェイトの大きい)物の単価に、平均単価が近づく
(参考)技術的にいうと、平均法には、さらに「移動平均法」と「総平均法」の2つの計算方法があります。
【移動平均法】仕入れるつど、その時々の平均単価を求める方法
【総平均法】一定期間における平均単価を期間単位で求める方法
3.期末時点において、棚卸資産の販売市場ベースにおける時価が原価(仕入れた時の価格)を下回った時には、時価まで評価を切り下げ、評価損を計上する。
以上が在庫評価に関する主なルールです。
ここで、JXホールディングスが採用している総平均法によれば、原油価格が上昇する局面において、販売時点の売価に比べ、期首の仕入価格が非常に低い場合、その差額が大きくなり、利益が膨らむ結果になると言われているわけですね。
JXは当初、1バレル(160リットル弱)あたり100ドルという単価を7月以降について予想していたそうです。
一時90ドルを下回る場面もあったようですが、7月以降は戻り、直近では110ドル前後まで回復しました。
たとえば、期首の仕入価格が100ドルであったとすれば、その後、価格上昇で110ドルになったとして、その間、たんなるインフレによる差益で少なくとも10ドルは利益が増えるわけです。
こういった、在庫を所有しているだけで価格上昇分が上乗せされる分を、会計の専門用語で「保有利得」といいます。
ただし、注意が必要なのは、総平均法の場合は売上原価を100ドルで買った製品と110ドルで買った製品の平均単価で算定しますので、実際は105円など、中間の値段で費用計上されます。
この点、実を申しますと、先入先出法を使った方が、完全に古い単価を先に払い出しきってから後から仕入れた単価を払い出すという考え方に基づくので、保有利得が多くでます。
そのあたりの説明までは、さすがに新聞記事では補足することはできなかったようです。紙面の都合などもあるのでしょう。
以上、久しぶりに見た在庫関連の会計ニュースでした。