双日、投資有価証券評価損110億円の計上を発表(日経12*10*6*15)
総合大手商社の双日株式会社は、10月5日に投資有価証券評価損を第2四半期決算(平成24年9月30日)で累計110億円計上するという内容の発表を行いました。
リリース→ http://www.sojitz.com/jp/news/2012/pdf/121005.pdf
その冒頭部分をご紹介いたします。
「「その他有価証券」に区分される保有有価証券のうち、時価が著しく下落し、その回復があると認められないものについて、平成25年3月期第2四半期において減損処理による投資有価証券評損を計上する必要が生じましたので、お知らせいたします。」
【その他有価証券】
その他有価証券とは、たとえば取引関係の安定化を目的として持ち合い株を保有しているなど、短期売買のトレーディング目的でもないし、子会社として支配する目的でもない所有パターンで保有中の株式などです。
満期まで所有する意思のない債券も「その他有価証券」という所有分類になります。
その他有価証券の期末評価は、時価がある場合、いちおう決算日時点では時価で評価しますが、トレーディング目的でもない限り、すぐ売ることは通常考えにくいので、翌日(翌期首)には、すぐに取得原価(買った時の評価額)に戻します。
このような処理を「洗い替え法」といいます。
(例1)A社株式200株(単価1,000円)を取得し、現金を払った。
貸借対照表
(資産) (負債・純資産)
現金預金 △20万円
投資有価証券 20万円
※その他有価証券は、貸借対照表では「投資有価証券」と表記します。
(例2)決算日。A社株式の時価は1,500円に上昇した。なお、税効果会計(含み益の税金相当額を負債として計上する処理)は無視する。
貸借対照表
(資産) (負債・純資産)
現金預金 △20万円
投資有価証券 30万円 その他有価証券評価差額金 10万円
(例3)決算日の翌日(翌期首)。洗い替え処理を行い、投資有価証券の評価をもとの原価に戻す。
貸借対照表
(資産) (負債・純資産)
現金預金 △20万円
投資有価証券 20万円 その他有価証券評価差額金 0万円
…以上より、その他有価証券の時価評価は、財務諸表を作成する日、すなわち決算日の一日限定の会計手続なのですね。わたしがよく日商簿記1級の講義などで「ウスバカゲロウの時価評価」と例える所以です。
これが通常の場合で、このかぎりにおいては、その他有価証券がたとえ一時的に少々の時価下落になっても、おなじような一日限りの時価評価で、すぐ原価に戻されます。
投資有価証券評価損が計上され、その後も残るようなことは基本的に考えられないのですが、さっきの双日のケースのように、「時価が著しく下落」し、「回復の見込みがあると認められない」場合には、特殊な会計処理として、「減損処理」を行います。
著しい下落とは、おおむね半額以下とイメージしておけばよいでしょう。
半額以下に下がったら、ふつうは元に戻らないとも考えられますが、以前の日産などのように、みごと回復することも十分ありえますので、著しい下落がすぐ減損処理!とならないよう、回復可能性についてはいちおうの判断をする必要があります。
上記のニュースリリースでは、「回復の見込みがあると認められない」という表現がされていますが、簿記の教科書的には、このほか、「回復の見込みが不明」の場合も、減損処理の対象です。
つまり、時価が著しく下がっても、「回復する見込みがある」と明確に予想される場合のみ、評価損の計上をしなくてよいことになります。
(例4)2年目の決算日。A社株式の時価は400円に下落した。回復見込みは不明なので、評価損を計上し、時価で評価する。
貸借対照表
(資産) (負債・純資産)
投資有価証券 8万円 利益剰余金 △12万円
※取得原価20万円-400円×200株=12万円…投資有価証券評価損
※損益計算書上の投資有価証券評価損は、貸借対照表の繰越利益(利益剰余金)を減少させる
このように、貸借対照表では、利益剰余金という配当の財源にあたる留保利益が減少することにつながります。
今回のトピックである双日の投資有価証券評価損(連結ベース)110億円の累計計上額の性格も、いまの例4と同じものだとご理解いただいてよろしいでしょう。