問題の所在をはき違えている「債券課税改変」(日経12*8*14*1)

今回は、個々の会計知識に関する解説というよりは、日本のあるべき会計教育の根幹に係わるという意味で、証券税制変更案と日本の投資思想の関係について、私見を述べたいと思います。

まず、同日の日経記事から読みとれる報道内容として、次のようなものがあります。

財務省と金融庁は個人の金融所得課税で、債券(国債、社債など)の譲渡損益を損益通算の対象に加える方針。

現状:債券の譲渡益は非課税。
(理由)もともと債券を所有する目的は、一般的に「満期まで保有」することにあるのだから、売却取引を想定する取り扱いは債券保有の基本目的になじまない、との理解がされてきた。

※日商検定2級・1級の商業簿記のテーマで学習する「満期保有目的債券」の評価方法にある背景の考え方と一致します。


変更案:譲渡益に課税するが、譲渡損失が出たら、これを株式の譲渡益などと相殺して(損益通算)、納税額が減るようなしくみにする。

(理由)急に現金が必要になるなどの理由で、債券を売却して資金化することもある。そのような場合に対する税整備が必要。また、次のような日本の金融資産の状況を改善する(☆)目的もある。

(☆)日本の金融資産の状況
約1400兆円の金融資産のうち、56%が現金預金で所有されている。
上場株式4%、投信4%、債券3%と、米国(株式18%)やドイツ(投信12%)などと比べて、預貯金への偏りが目立つ(らしい)。

株式市場・債券市場を成長させるためには、個人の投資を後押しするのが欠かせない、との問題意識が世間にはある。

よく見ると、「債券の譲渡益を有税化するんだから、課税強化じゃん」という突っ込みが入りそうですね。税源を増やしたいんでしょうか。

「そのかわりと言っちゃなんですが、債権の譲渡損が出たら、株式の利益と相殺できまっせ!」ということですが、別にそれほどうれしい交換条件とは思えません。

そんなの、代替案として関連の深い金融商品なんだから、特典と言うほどありがたいものではなく、むしろそれくらい当然では?という感じです。

ここまでは軽い準備運動なのですが、問題はこちらの認識です。

日本の金融資産の保有状況が預貯金に偏り過ぎと言っていますが、それは今の経済体制にあった国民の選択であって、とっても「大きなお世話」という気がします。

これだけ年金問題など将来に不安を残しといて、「預貯金はやめて投資しよう!」といっても、まともな感覚のお父ちゃんや主婦は、リスクマネーに投資するわけないでしょ、ってなもんですよね。

それよりも問題なのは…

「日本国内に、起業のノウハウ、起業家の精神をきちんと教育できる人が
いない。だから、投資案件がぜんぜん日本国内では足りない!!!!」

これですよ、これ。

その証拠に、あなたのまわりの10代、20代の若者の行動を観察してみてください。

こんな会話をする若者たちに、何人会いました?

A:「ちょっちょっと!昨日オレ、すっごいビジネスモデル思いついたんだけど、聞いてくんない?????ぜったい、このプランなら会社をでっかくして上場を目指せる自信あるんだけど!!!」

B:「え?何々???教えてくれよ!俺も一枚かんで、株もらっていい!?ファイナンスの面は、日商1級でバッチリ会計知識をゲットした俺にまかせちゃってよ!!」

C:「え~?B君、ずる~い!私、今、マーケティングの勉強中だから、集客面で関わりたいから、その話、まぜてよ!そのかわり、私にもストックオプション、ちょうだいよね、ウフッ♪」

(予想される声)
「いるわけねーだろ、いまどきそんな、ギンギンになってる奴!」

はい、わかりましたね。

だ・か・ら、日本で投資家を育てるという「夢」は、ぜったいに実現しないのです。

お金をベット(賭け)したくても、ベットするネタが海外にくらべて全然少なく、ベットするネタを無尽蔵にこれでもかとひねりだす面白い若者たち(大人もOK)を、この国は何十年にもわたって、育てる努力を致命的に怠ってきたのですから。

「起業家(チャレンジャー)精神」

情けないほどの、この文化の不足(いや、喪失?)が、日本に投資家を増やせない最大・最強の理由ですよ。

海外にいくら投資したって、海外が潤うだけです。

日本の事業を育てないと、日本のGDPは、いつまでたっても拡大しないし、経済的に日本の豊かさが成長していかない。

資金の供給側(投資教育)の問題ではないのです。

資金の需要側(事業家、起業家)がぜんぜんいなくなったことが致命的なんです。

なら、やることはシンプル。

1.ビジネスの立ち上げ方、
2.ビジネスの回し方、
3.人生の致命傷を負わないビジネス撤退の仕方、
4.何度でも再チャレンジする逞しい精神力の持ち方、

以上を、それこそ小学生くらいの時から、歯を磨く感覚で理解できるまで、丁寧に教え、実践させ、身につけさせ、やっとそれで「1000人に一人くらいの割合」で、優秀な事業家が育ってきますよ。

事業家が存分に活躍できる、活動できる、再チャレンジできる土台を作ってあげること。

【重要!】

ビジネスとは、社会の「不便」・「不満」・「不安」がどこにあるかを見つけ、それを解消することで事業を維持・拡大する活動です。

つまり、答えのないところから、社会の「不便」・「不満」・「不安」を見つけ出す想像力を、今の子ども・若者にたくさん身につけさせる機会を与え、一生懸命トレーニングを積んでもらうこと、これだけで、成果が出るのは少し先になりますが、ぜったいに景気は良くなります。

「若者を消極思考にさせないこと」

これが、長い目で見て、国家が成長・発展する最高の戦略だと思うのですが、いかがでしょうか。

だから、本日、日経一面で出ていた証券税制の改変なんて、投資促進という観点から言ったら、「対処療法的」で、大所高所からの長期的視点が抜け落ちた制度議論ではないかな、と個人的には思っています。

(私が細々ながらキッズ簿記を行っている根幹の理念は、ここにあります。
日本の子供には、「投資」より「商売の知恵」の方が、性に合っていますよ。)

柴山式簿記講座受講生 合格者インタビュー
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