消費増税・下請取引に政府介入で歪みの連鎖(日経12*8*1*3)

日経新聞8月1日の3面に、私がいぜん指摘した通りの懸念がでてきたことを示唆する記事が掲載されていました。

記事の見出しは、次のとおりです。

「消費税の増税分 下請け企業の上乗せ円滑に」
「『いじめ』防止 政府、監視を強化」

(日経朝刊2012/8/1第3面より)

みなさんにちょっと考えてもらいたいのですが、以上の見出しをもとに、人前で10分程度スピーチしてくれ、といわれたら、なにを論点の中心に持ってきますか?

また、この見出しを見てどのような印象をお持ちになりましたか?

判断の参考になるように、この記事の要点をまとめてみます。

1. 消費増税(5→8%、8→10%)に伴い、下請け企業は力関係的に弱い立場にあるので、元請け(多くは上場企業や親会社など)に対して、増税分を部品などの製品価格に上乗せ(価格転嫁)できない事が予想される。

2. これを受けて、政府が、下請けからの納入価格に増税分を転嫁できるような対策づくりに入った。

3. 具体的には、同業の企業が横並びで転嫁する「カルテル」を法的に認める、政府の相談窓口を充実する、下請けいじめを摘発する監視体制を強化する、などがある。

4. 日商などが昨年実施したアンケートでは、年間売上5000万円以上の
中小企業で6割以上が価格転嫁は困難と回答したという。

5. 消費税率を3→5%に上げた1997年当時は、4~5割が価格転嫁できたとしている。

6. 以上4.と5.の結果から、今回の方が価格転嫁が難しいのでは
ないか、と記事の執筆者は見ている。

7. 政府の価格転嫁を促進する仕組みの実効性を保つのは難しい面もある。

8. 海外輸入品との価格競争、長引くデフレなどで消費者による値上げ
への抵抗感の強さが7.の背景にある。

9. 欧州では、増税時に最終製品の便乗値上げの方が問題になる。

以上が判断材料となる情報です。

こうしてみると、面白い点が多々ありますね。突っ込みどころ満載です。

あなたなら、どこをツッコミますか?

以上1.~9.のうち、自分の興味や体験にあわせて、深掘りして語れそうな所にひとつ、焦点を絞ってスピーチを吟味してみましょう、というのがここでの答えですよ。

いちばんいけないのは、「すべての論点をまんべんなく網羅しよう」とする欲張り思考です。

あれもこれも、となると一つのトピックについての情報量が格段に減ってしまいますので、聞き手の興味を引き付けることは、たとえどんなプロのスピーカーでも無理です。

いや、むしろ、プロのスピーカーほど、一つの論点にギュッと絞って、そこに思いっきり感情移入し、全神経を集中して話しを研ぎ澄ますことでしょう。

そして、最低でも10回以上は話す前にリハーサルをするでしょう。

それがプロというものです。

さて、スピーチのノウハウに関する話はさておき、たとえば上記の「5.消費税率を3→5%に上げた1997年当時は、4~5割が価格転嫁できたとしている。」というくだりに注目してみてください。

…どのように感じましたか。

「え?けっきょく下請けって、4割くらいしか転嫁できてないじゃん。
じゃあ、のこりの6割は、消費増税分、下請けの粗利が削られたってこと????? でも、100円均一は105円になったよね。」

こんな感じ方もありです。

さらっとスルーしているその比較対象の方も問題ありってケースですよね。

全体の流れからして、政府の理想は「100%下請け企業の価格転嫁」と読みとれるはずです。

それが、比較対象の前回増税時にも半分も転嫁できていない状況…。

どうみても、歴史は繰り返す、というのが自然な見方ですよ。

前回は5-3=たった?2%の増加ですから。

今度は違いますよ。

10-5=5%の増加ですよ。

もっと転嫁は無理でしょ、常識的に見て。

わるいですが、さらなる税収悪化のシナリオの方が、現実的だとわたしには思えるのですが。

新聞でも言っているとおり、「実効性が薄いであろう」ことは、政府も承知しているのではないでしょうか。

で、実効性に疑問といいながらやりましたよ的なポーズは対世間的には必要でしょうから、私個人の印象的には、ちょっとパフォーマンスかな、という感じがしています。

「努力はしましたよ。でもダメでした」なら、世間は受け入れるという皮算用です。

柔道で言うところの「技のかけ逃げ」に見えます。

あと、政府の相談窓口とか、監視体制強化と考えると、「また新しい制度→新たな利権?天下り先?違えばいいけど…」と何でも勘ぐってしまう悪い癖が…(苦笑)。

ともあれ、政府発表は無色透明に考えるべきです。

新聞が示してくれている情報をたんねんに要点だけ拾っていっても、そこに矛盾がちらほらと見えるわけですから。

そもそも企業間取引の価格形成に政府が介入すると、一般論としてはろくなことがありません。

競争市場の効率化作用がゆがめられますからね。

所得の再配分という福祉国家的な役割を果たそうとした時、価格をいじるやり方は、予想外の副作用に見舞われるリスクがあります。

だいたい、下請け価格の転嫁→元請けから消費者への販売価格転嫁という流れを考えれば、賃金が上がらないこの状況で、値上により売上減に見舞われることは火を見るより明らかです。

下請けの価格転嫁ができたらできたで、つぎに最終消費価格への転嫁問題がやってくるので、けっきょく消費者につけが回ります。

あるいは、体力のある上場企業に泣いてくださいよ、ということなら、資本主義社会において原則「労使」の「使(使用者)」の方が立場的に強いのが理ですから、とうぜん賃金カット、リストラという形で企業家は対抗してきますよ。あたりまえです。

となると、雇用状況が悪化し、けっきょくは消費者=労働者につけが回る、という寸法です。

消費税は、どんなやり方をとっても、広く浅く国民全員に負担を強いる制度です。

さらに、低所得者ほど生活消費を減らすのは難しくなりますから、所得に対する税負担が上がります(逆進性)。

政府が本当にやりたいこと(中心軸)は、まず「消費増税」という事実であった、という根本を、ここで忘れないでおきたいです。

そうすると、その後・その周辺で起こっている枝葉の事項についての考察を誤らないのではないかと思いますよ。

柴山式簿記講座受講生 合格者インタビュー
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