円高が利益を減らす理由(日経12*6*5*13)

自動車メーカーの主要7社につき、日経新聞社が報じたところでは、円高・ドル安の進行に伴う業績の低下圧力が強まっているとのことです。

トヨタ、日産、ホンダ、富士重、マツダ、三菱およびスズキの自動車各社につき、ドル円で1円の円高につき850億円もの営業利益を押し下げる影響が出るという試算ですね。

<1円の円高に対する減益効果の内訳>  日経記事より引用
トヨタ ・・・ 350億円
日産 ・・・ 200億円
ホンダ ・・・ 170億円
富士重 ・・・ 65億円
マツダ ・・・ 35億円
三菱自 ・・・ 21億円
スズキ ・・・ 9億円
合計 ・・・ 850億円 (前年は779億円)

トヨタは、前年の320億円よりも30億円増加して、350億円もの業績への影響が出るだろうと見込まれています。

さすが日本を代表する大手企業です。

1ドルの為替相場の変動が業績に与える影響、ハンパないです。

ではここで、ちょっと具体例をあげて円高の影響を考えてみます。

たとえば1台2万5千ドルで自動車を販売していたとしましょう。

もしも年間100億ドルを売り上げていたら、年間のドル建て販売台数は
100億ドル÷2万5千ドル=40万台です。

これらにつき、翌年も同じ2万5千ドルで自動車を販売したとしても、外貨で受け取った現金(ドル)を円に両替えする段階で、たとえば1ドル80円から79円に円高となってしまったら、受け取れる円ベースの現金は、

(79-80)円×100億ドル=マイナス100億円!

となります。

なお、単価2万5千ドルの自動車ならば、1台当たり2万5千円の利益喪失につながりますね。

これはたいへんだ!ということで、80円から79円への円高トレンドを前提とした場合、円ベースの受取額が同じになるように外貨建ての販売価格を調整しようとしたら…

(80円×2万5千ドル)÷79円=200万円÷79円
=約25,316.45ドル

つまり、316.45ドル÷25,000ドル=約1.26%
の値上げをしなければならなくなります。

自動車一台当たり2万5千円程度の値上げです。

これは、アメリカ国産車との競争戦略上、とても不利になりますよね。

ちなみに、円高の影響はこれだけではありません。

外貨建ての資産を持っている場合には、その分だけ円ベースの資産価値が目減りします。

たとえば、3月1日に2万5千ドルの自動車を1ドル80円の時に売り上げ、ドルで代金を受け取ったとしましょう。

簿記会計の教科書では、取引発生時の為替レートをHRと表記します。

3月1日の仕訳
(借方) 外貨預金 2,000,000円 (貸方) 外貨売上 2,000,000円

(借)外貨預金2,000,000円(貸)外貨売上2,000,000円
   ※2万5千ドル×HR80円=2,000,000円

(参考:為替換算会計に関する基本用語の知識)
1.取引時の為替相場(HR、Historical Rate)
…取引発生時における為替レートのこと。

2.決算時の為替相場(CR、Current Rate)
…決算日時点における為替レートのこと。

3.一定期間の為替相場の平均(AR、Average Rate)
           …例えば期中における平均為替レートなどです。

(外貨建換算会計は、日商簿記1級の重要テーマのひとつです。)

外貨預金や外貨建ての売掛金・貸付金など、貨幣として回収されるもの、現金化されるものを会計学では「貨幣性資産」と呼びます。

外貨建換算会計の実務ルールでは、貨幣性資産や将来貨幣で返済する負債は、原則としてCR(決算時の為替相場)で換算替えします。

したがいまして、上記の外貨預金2万5千ドルも、決算日の為替相場で評価し直します。

では、決算日の為替相場が1ドル79円になったとしましょう。

決算日の仕訳
(借方) 為替差損 25,000円 (貸方) 外貨売掛金 25,000円

※(79-80)円×25,000ドル=△25,000円

このように、外貨売掛金が25,000円ほど目減りして、貸借対照表上の残高が2,500,000-25,000=2,475,000円になってしまうのですね。

仕訳の借方「為替差損25,000円」は、変動相場制のもとにおける市場の貨幣価値変動にともなう損失であることから、
「本業には関係ないけど、毎年のように発生しうる(=経常的である)損益」として、「営業外損失(収益の場合は営業外収益)」という項目に分類されて、損益計算書に表示されるのです。

営業利益には影響ないですが、経常利益を減少させます。

このように、円高になると、日々の売り上げ金額が目減りするだけでなく、貨幣性資産の場合、期末の円換算の変化にともなう為替差損という二重の損につながるということを知っておくと、新聞記事で「円高で企業収益に打撃!」というニュースを見た場合、輸出企業が受けるダメージの意味が、より具体的にイメージできと思いますよ!

柴山式簿記講座受講生 合格者インタビュー
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