武田薬品、IFRS導入でのれん、400億円増益要因(日経12*5*19*13)
武田薬品は、以前からIFRS(国際会計基準)の早期導入を目指して、専属チーム導入をしていたと思います。
最近の動きをみると、ひじょうに海外の大型買収案件がめだっていましたよね。
あれと、今回のIFRS導入はけっして無関係ではないでしょう。
いぜんから、日本基準との大きな違いの一つとして、「のれんの償却をするかしないか」という問題がありました。
のれんと業績の関係は、こと武田薬品の損益計算にあたって、非常に大きな影響を与えます。
たとえば、2012年5月11日に公表された「12-14年度中期計画」では、
p15「営業キャッシュフローの見通し」のところで、のれん償却費の計上による業績の下振れが、なんと毎期300億円も見込まれています。
URL→ http://www.takeda.co.jp/pdf/usr/default/j00_49459_15.pdf
これは、大変な額ですね。
2012年度(2013年/3月)の営業利益予測は1,600億円と出ていますが、
これは2011年度(2012年/3月)の2,650億円より、1,050億円低い数字です。
この減益要因のひとつとして、のれん償却費300億円があることは、明白です。
ここで、のれんとはどのようなものか、かんたんにチェックしておきましょう。
【のれん】
買収先の「時価ベースの純資産」と、その買収にかかった「投資額」の差額のこと。
純資産は、その企業が所有している「資産」と「負債」の差額であり、株主の持分をあらわす。
株主の時価ベースにおける持分を上回る金額で買収する、ということはバランスシートに表れないプレミアム的な価値を認めているのだから、差額はその企業の見えない付加価値といえる。これを、会計上は「のれん」と呼んで、無形固定資産として扱う。
かつては「営業権」と呼んでいた。連結決算上は「連結調整勘定」と呼ばれていたものである。
(取引例)
A社は、B社の株式100%を10億円で取得し、完全子会社とした。
B社のバランスシート上、資産(時価)が20億円、負債(時価)が14億円であった。
本案件における買収にかかるB社の取得原価(投資額)は、10億円であるので、これと時価純資産との差額を「のれん」として、連結決算上は計上することにした。
(個別決算上の仕訳)
A社
(借方)子会社株式 10億円 (貸方)現金預金 10億円
(連結決算上の相殺およびのれん計上仕訳)
A社
(借方)純資産(B社) 6億円 (貸方)子会社株式 6億円
(借方)のれん 4億円 (貸方)子会社株式 4億円
支配獲得時におけるB社の純資産は、以前の株主の持分なので、買収にあたって消去します。
純資産項目は、もともと貸方(バランスシートの右側)の項目なので、借方(左)に書くと、消滅するのですね。
以上をまとめると、連結ベースのB社結合によるバランスシートの状態は、次のような感じになります。
バランスシート(B社結合)
資産(時価) 20億円 負債(時価) 14億円
のれん 4億円 ‥‥‥‥‥‥‥
現金支出額 △10億円
B社の財産を単純に買い取るならば、6億円の支出で済むところを、10億円支払ったというのですから、差額の4億円はプレミアム部分ですよね。
これが「のれん」といわれるやつです。
日本の現行における会計基準ではこののれんを20年以内で償却(費用化)します。
いっぽう、IFRSでは、のれんは償却しないという立場をとっています。
その代わり、毎期の決算で、減損(固定資産の価値を臨時に下げる会計処理)の対象にするべきかどうかの検討で、評価の見直しの機会を持たせています。
新聞によると、武田ののれん償却第300億円の内訳は、次の通りです。
米ミレニアム 120 億円
ナイコメッド 170 億円
その他 10 億円
合計 300 億円
たとえば、これらを20年で均等償却していると仮定するならば、もともとの取得原価は300億円×20年=6,000億円にものぼりますね。
これらを費用化するのと、まったく費用化しないのとでは、会社の業績にあたえる影響が大きく異なります。
この点、武田薬品の立場としては、海外のIRFS適用企業がのれん償却費を計上しないこととの関係で、業績表示上は不利な条件であった、と認識していたのではないでしょうか。
これは、日本企業がひろく置かれている状況にもあてはまります。
M&Aを積極的に行っており、のれん計上が多額の会社は、同じような悩みを抱えていることでしょう。
なお、新聞の見出しでは400億円が増益要因と出ていますので、のこりの100億円アップは、記事の本文にもある通り、減価償却方法の変更などが関係するようですね。