武田薬品、スイス社の統合費用が影響して減益(日経12*2*2)
2月1日に、武田薬品は2011年4月~12月期(第3四半期)の連結業績発表をしました。
それによると、売上高は前年同期比4.3%増の1兆1276億円ですが、営業利益以下は、のきなみ20%以上の減少となっており、「微増収だけど大幅減益」という印象の決算になっています。
(参考)武田薬品の連結経営成績(9ヵ月累計。億円未満切り捨て)
H23年4月~12月
売上高 1兆1276 億円 ( + 4.3% )
営業利益 2650 億円 ( ▲ 20.3% )
経常利益 2650 億円 ( ▲ 21.2% )
四半期純利益 1606 億円 ( ▲ 25.5% )
H22年4月~12月
売上高 1兆0811 億円
営業利益 3325 億円
経常利益 3364 億円
四半期純利益 2154 億円
あきらかに、通常とは異なる特殊要因としてのコストアップがあったことがわかります。
ちなみに、売上高から売上原価を引いた粗利(売上総利益)の売上高に対する比率(粗利率)を前期分もふくめて計算してみましょう。
<粗利率>
売上総利益 ÷ 売上高
H23年4月~12月
売上高 1兆1276億円
売上総利益 8225億円
粗利率 72.9% (前年同期比▲239億円、▲2.8%)
H22年4月~12月
売上高 1兆0811億円
売上総利益 8464億円
粗利率 78.2%
営業利益の減少幅は2650億円-3325億円=▲675億円ですから、売上総利益の増減▲239億円は、営業利益の減少額の約35%を占めていることになります。
すでに、売上原価が売上高以上に急上昇していたんですね。
このような現象につき、決算説明では、買収の影響が大きかったとされています。
⇒ http://www.takeda.co.jp/investor-information/
※「2012年3月期 第3四半期決算、カンファレンスコール資料」より
カンファレンスコール資料2ページ目の説明によりますと…
Nycomedの企業買収に起因する特殊要因 △504億円
・棚卸資産の時価評価による増加部分に係る償却費
(売上原価) △342億円
・無形固定資産償却費(一般管理販売費) △120億円
・のれんの償却費(一般管理販売費) △43億円
ナイコメッド(Nycomed)社の買収に関連して、
棚卸資産の時価評価による売上原価の増加が342億円もあったそうです。
のれんの償却も43億円の費用増につながっていますね。
ここで、企業買収に関する会計ルールのプチ解説です。
のれんの計上につきましては、いままでにも何度か取り上げたこととおもいます。
簡単にもうしあげますと、「買収先の企業の純資産(時価ベース)よりも高い値段でその企業を買ったときに生じるプレミアム(価格上乗せ)分」を「のれん」といいます。無形固定資産です。
(取引例)
A社は、B社を買収し、現金15億円を支払った。
B社のバランスシート(時価評価済み)は、次のとおりである。
時価バランスシート
諸資産 50億円 諸負債 35億円
純資産 15億円
既存のB社株主の持分
このように、B社の株主持分(純資産)が15億円ですから、15億円の金額で買収するならば、「のれん」が出ません。
(A社の会計処理=仕訳例)
(借方)諸資産 50億円 /(貸方) 諸負債 35億円
現 金 15億円
ここで、もしも持分の買収時における時価評価額15億円よりも10億円高い金額、すなわち25億円でB社を買い取ったら、10億円分だけ、借方に別の資産が登場します。
これが「のれん」なのですね。
(A社の会計処理=仕訳例)
(借方)諸資産 50億円 /(貸方) 諸負債 35億円
のれん 10億円 / 現 金 25億円
…ここまでは、「のれん」計上のお話です。
じつは、それ以前に、買収前のB社の帳簿上の評価額が、たとえば諸資産が44億円、諸負債が33億円だったとすると、もとのバランスシートは次のような感じになります。
簿価バランスシート
諸資産 44億円 諸負債 33億円
純資産 11億円
既存のB社株主の持分(簿価ベース)
※簿価…帳簿上に記録されている評価額
金融商品を除く多くの場合、むかしその資産を買ったときの原価(購入代金)などの金額が今でも引き継がれています。
じつは、諸資産44億円のなかに、B社の棚卸資産(在庫)も帳簿価額(簿価)ベースで含まれている、というお話なのですね。
これも含めて、B社の資産をすべて時価に評価し直したうえで、企業買収を実施します。
このように、買収先の企業の資産・負債をすべて時価で評価する会計処理のやり方を「パーチェス法」といいます。
パーチェスとは、購入すると言う意味をあらわす英語ですね。
したがって、「会社をお買いものした」と考えて帳簿記録するやり方なのです。
買い物したと考えますから、買収時の価格=時価ですべてを評価し、それと支払金額の差を「のれん」とするわけです。
武田が棚卸資産の時価評価による売上原価の増加分342億円といっているのも、このパーチェス法の考え方と関係があるのではないかな~、と思います。
企業をM&Aするときの代表的な会計処理方法、パーチェス法という考え方を、この機会にご理解いただければ幸いです。