上場企業の減価償却、定額法への切り替え増加(日経12*1*5*15)
先月の会員制で、ヤマハでの事例で減価償却方法の変更を見ました。
それが、ほかの企業にも広く実施されているようだ、というお話です。
上場企業が有形固定資産の減価償却方法を「定額法」から「定率法」に切り替える事例や、定額法の範囲を広げるなどの事例が増えているようです。
2011年度は日経平均株価の対象銘柄で金融以外の204社のうち、住友化学など10社が定額法の適用範囲を広げます。
これは、2010年度の8社を上回る数とのことです。
その背景として、グローバル化にともない海外資産が増加したことがあります。海外の資産は定額法が中心なのですね。
なお、ここで基礎知識です。
減価償却とは・・・
建物・機械・車両・備品などにつき、使用や時の経過に伴い劣化した部分の金額を一定の仮定にもとづいて見積り計算し、当期の決算の費用として計上する会計技術です。
減価償却を実施するにあたっての計算要素は、
(1)取得原価…設備を取得した時の評価額
(2)耐用年数…設備の見積り使用可能年数
(3)残存価額…耐用年数が来た時に、処分して回収できる売却価値
の3つです。
※現在の税制では、残存価額はゼロとみなされています。
会計ルール上、減価償却の計算方法には次のようなものがあります。
1.定額法
設備の使用期間中、毎期一定額を減価償却費として計算する方法。
(例)1500万円の設備を耐用年数5年、残存価額ゼロ、定額法により、当期の減価償却費を計算する。
→1500万円×0.2=300万円…当期の減価償却費
→1年目、2年目以降も毎年の減価償却費は同じ。
2.定率法
設備の使用期間中、期首の帳簿価額(取得原価から減価償却した額)
に一定率をかけて減価償却費を計算する方法。
※現在の税制にもとづく減価償却方法では、定額法の償却率
(10年なら0.1、5年なら0.2など)に2.5を掛けた率を
定率法における償却率としています(250%定率法)。
(例)1500万円の設備を耐用年数5年、定率法(0.5)により、当期の減価償却費を計算する。
→1年目:1500万円×0.5=750万円…減価償却費
→2年目:(1500-750)×0.5=375万円…減価償却費
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このように、1年目がもっとも減価償却費の額が大きくなります。
2年目以降は、減価償却費が徐々に少なくなります。
定率法によると、取得年度の費用が大きくなり、営業利益が圧迫されるのですね。
3.級数法(参考)
設備の使用期間中、算術級数的にすこしずつ減っていく割合で減価償却費を計算する方法。
(例)1500万円の設備を耐用年数5年、耐用年数ゼロ、級数法により、当期の減価償却費を計算する。
→1年目:1500万円×(5/15)=500万円…減価償却費
→2年目:1500万円×(4/15)=400万円…減価償却費
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※級数法における5年という期間の総項数は15である。
1年目(5)
+2年目(4)
+3年目(3)
+4年目(2)
+5年目(1)
=15…総項数(減価償却計算をする時の分母)
各年度の償却割合
1年目(5/15)
+2年目(4/15)
+3年目(3/15)
+4年目(2/15)
+5年目(1/15)
=全期間の合計(15/15)
以上のほかにも、生産高比例法などの減価償却計算法がありますが、実務上はほぼ定額法と定率法のどちらかが主流となっています。
なお、(例)でもご覧いただけたように、1年目の減価償却費などは特に、定率法の方が2.5倍も定額法より大きくなり、その分だけ新規設備投資をたくさんした年は定率法の企業の営業利益がガクンと下がる傾向にあります。
このような状況と昨今の不況を考え併せると、どうしても定率法による償却負担が営業利益に与える影響を無視できませんね。
もちろん、景気が良い時ならば、十分な営業利益が見込まれますので、節税になるので定率法が好まれます。
しかし、最近の経済状況だと、定率法が業績の足かせになります。
なお、企業のM&A評価をする時は、財務会計(公表財務諸表の作成)において定率法を使っていようが定額法を使っていようが、一律、定額法で評価し直して企業価値を算定するのが基本です。
利益をある程度平準化して企業の収益性をみたい、というのもあるのでしょうね。
いずれにせよ、初期に2.5倍もの償却費を計上せざるを得ない現行の定率法は、利益確保で苦心している経営陣にとって採用しにくくなっているのは確かだと思いますよ。