飯野海運、定額法に減価償却方法を変更(日経11*12*13*17)

海運業のほか、不動産事業も手掛ける飯野海運株式会社は、2012年3月期から船舶や不動産などの有形固定資産につき、減価償却方法の変更をするようです。

具体的には、船舶及び平成10年4月1日以降に取得した建物以外については、定率法という償却方法によっていましたが、今年度よりすべて定額法という償却方法に統一するそうです。

以下、ご参考までに飯野海運の第2四半期決算短信における文章の一部を
引用させていただきます。

(3)会計方針の変更・会計上の見積りの変更・修正再表示
(会計方針の変更)
従来、船舶及び平成10年4月1日以降に取得した建物(建物附属設備を除く)以外の有形固定資産の減価償却方法については定率法を採用しておりましたが、第1四半期連結会計期間より将来にわたり定額法へ変更しております。
この変更は、不動産業における大型の設備投資(飯野ビル建替え)を契機に、これらの有形固定資産の減価償却方法を検討した結果、保守修繕計画により維持管理され安定的使用が見込まれること、また技術的陳腐化リスクも少なく、資産の経済的便益の消費が平均的に生ずると見込まれることから定額法がより合理的と判断したことによるものであります。

(会計上の見積りの変更)
従来、耐用年数は主として法人税法に規定する方法と同一の基準によっておりましたが、飯野ビルが当連結会計年度に稼動することを契機に、以下の設備について第1四半期連結会計期間より将来にわたり耐用年数を見直しております。
この見直しは、当該有形固定資産の使用状況及び陳腐化リスク等の経済的耐用年数を総合的に考慮して決定されたものであります。

これらの結果、従来の方法によった場合と比較し、
当第2四半期連結累計期間の営業損失、経常損失及び税金等調整前四半期純損失は、それぞれ104百万円減少しております。
(資料:「第2四半期決算短信」飯野海運ホームページ)
http://www.iino.co.jp/kaiun/ir/index.html

これは、会計方針の変更と呼ばれる事例です。

まずは基礎知識ですが、有形固定資産のうち、
建物・構築物(アスファルトなど)・車両運搬具・機械装置・備品・船舶などについては、使用や時の経過によって価値が下がっていきます。

老朽化するんですね。

このような価値の減少具合を一定の仮定に基づいて推定計算し、当期の損益計算書の費用としてあげよう、というのが減価償却という計算手続です。

なお、下記の計算例で残存価額というのは、建物を処分するとき(計算上は「耐用年数が到来した時)の処分価値の見込み額です。

(例1)
建物1000万円を期首に取得した。耐用年数10年、残存価額0円
として、今年の損益計算書に計上する減価償却費を計算する。

計算方法は、取得原価(1000万円)を耐用年数にわたって一定額ずつ
費用化するやり方とする(定額法)。

1年÷10年=償却率を0.1と考える。

当期の減価償却費…1000万円×0.1=100万円(1年当たり)

これに対して、定率法というのは、今の税法では、
定額法の償却率を2.5倍した率で減価償却費を計算する方法です。

計算式は、「期首の帳簿価額(評価額)×定率法による償却率」です。

2年目になると、取得原価1000万円から、1年目に計上した減価償却費を
引いた残高に、償却率を掛けます。

(例2)
建物1000万円を期首に取得した。耐用年数10年、残存価額0円
として、今年の損益計算書に計上する減価償却費を計算する。

計算方法は、取得原価(1000万円)を耐用年数にわたって一定率ずつ費用化するやり方とする(定率法)。

定率法による償却率は、定額法0.1×2.5=0.25と考える。

当期の減価償却費…1000万円×0.25=250万円(1年目)です。

定額法と比べて、1年目の定率法の償却費は250万円と、150万円も違ってきます。

これでは、定率法で費用を上げた場合、最終利益は150万円ほど低くあり、どちらの計算方法によるかで、業績表示がずいぶんと変わりますね。

ちなみに、2年目の償却費を比較してみます。

(定額法)1000万円×0.1=100万円(2年目)

(定率法)(1000-250)万円×0.25=187.5万円

定額法は毎期一定額の償却費ですが、定率法は、2年目の最初における帳簿価額(評価額)が「1000-250=750万円」と下がるため、償却費も1年目に比べて少なくなるのが特徴です。

いずれにせよ、取得からしばらくの間は、定率法の方が圧倒的に費用を多く計上するので、業績が厳しい会社は、定率法で計算すると業績がさらに悪く見えてしまうのですね。

こういった事情も合わせて考えると、飯野運輸は、さいきん業績が厳しくなってきているという背景もちらほらと想像できそうです。

実際、最近3年の連結営業利益を見ると、

2009年3月   11,926百万円
2010年3月    4,086百万円
2011年3月    2,393百万円

と、年を追うごとに苦戦しているという状況がありますね。

定率法から定額法への変更は、営業利益以下を少し大きくする影響があるのだ、ということも参考として知っておいてください。

柴山式簿記講座受講生 合格者インタビュー
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