オリンパス役員が臨時総会で総退陣へ?(日経11*12*8*1)
オリンパスは7日、損失隠し問題に関する第三者委員会の調査報告を受けて記者会見し、現在の役員が全員退任する意向であることを発表しました。
来年2月に臨時株主総会を開き、経営陣が総入れ替えになるようです。
まずは、1000億円規模の不正が露見したという事実の重さにかんがみて、世間へのアピールとしてはこれくらいの見せしめは必要なのでしょう。でも、まだぜんぜん軽いくらいです。
なぜか?
今のところですが、本人の身体的拘束・損害や経済的な損害を伴わないからです。
「悪いことをしたら、それに応じた厳しい罰を受ける」
それが統治というものの本質です。
「故意に」めっちゃ悪いことをしたんですよ、彼らは。
しかも最初はしらっととぼけてみせたりして・・・。
本来、トップというのは危急存亡ないし一大事のときに、責任を取るのがもっとも大きな仕事のひとつですから、これは当然です。
あ、ちなみにですが・・・
少なくとも役員退職金をもらおうなんて、考えてないですよね。
そのあたりはどうか、ぜひ新聞記者の方、念のために高山社長に突っ込んでみてください。
覚悟があるなら、過去の役員報酬をいくらか返上してもいいくらいです。
それが男ってもんでしょう。
そこまでやって、やっと他の上場企業の役員は「ヤバい!」と思いますよ。
やめて反省したふりなんて、サルでもできますから。
今回のオリンパスの役員の処遇は、他者の役員はそれぞれ注目している
と思います。
だから、ここは反対に厳しい姿勢を見せるチャンスです。
時代が時代、国が国なら本人の処刑だけでなく家族まで処罰が及ぶ可能性があったくらいの重大犯罪だということをしっかりと胸にとどめておきたいところです。
監査人にも全く責任がない、とは言い難いですよね。
さて、2011年12月8日の日経1面と3面では、企業統治に関する話題が紙面をにぎわせていました。
そもそも、企業統治を担当するのは会社のどの部署でしょうか。
そこで、今回のテーマは「会社の機関」です。
会社法という学問領域に関係します。
会社法上、株式会社の基本的な構成要素は、
・株主総会
・取締役会
・取締役
・代表取締役
・監査役
ですね。
株主総会は、会社の最高経営意思決定機関です。年に一回の定期総会で、直前期の決算の承認をしたり、取締役の選任・解任を行うことができます。
過去一年間の取締役の実績に不満があれば、基本的に最終的な人事権を株主の集まりである株主総会が握っているわけですね。
だから、株主総会に臨む社長は、胃が痛くなる思いをするわけです。
ましては、総会の直前に会社の不祥事でも明らかになろうものなら・・・。
そんなわけで、昔は「総会屋」などと言って、株主総会を円満に終わらせる一役を一般の人ではない方々が仕切ったり会社から特別な利益を取ろうとしたりしていたことがあったのです。
私が監査法人にいたころは、
「シャンシャン総会」という言葉がありました。
思い出すのは、総会当日には、大きなクライアント先に監査責任者が趣き、
一応待機していたことです。
財務会計の問題で何か質問でもあろうものなら、会計士が必要になるかも、なんていうことなのですが、私がいた時には、会計士がなにか意見を求められた、ということはなかったです。
ちなみに、総会には私服で警官が待機したりと、ものものしかったですね。
私も新人時代、部屋のわきに控えていたのですが、隣に座っていたのがいかつい体格の私服の警官でした。
カベを隔てた向こう側では、総会が粛々とすすんでいました。
マイクで、なにやら役員がぼそぼそ話しているのですが、その合間合間に、野太い声で「異議なし!」「議事進行!」と威圧的に合唱しているのを隣で聞くにつけ、「ああ、これがシャンシャン総会の現場なのね」と大いに社会勉強をした感覚を覚えたものです。
あれでは、気の弱い個人株主は、口をはさめません。
昔の商法で、「総会の形骸化」と言われていた所以です。
今はどうなのでしょう。
最近、株主総会に出ることはなくなったので、詳しくは知らないですが、でも、多くの会社で株主総会の様子を動画でアップしたり、かなり風通しが良くなったことには隔世の感を覚えます。
昔は、「あの会社は20分で終わったぞ!」みたいに、異議なく早く終わるのがいいことみたいな変な雰囲気がありましたから・・・。
そう考えると、時代を経て、総会は以前より風通しが良くなったような気がするのですが、どうでしょう。
さて、株主総会はあくまで経営の素人ですから、やはり日常的な社内の運営については、取締役の方が熟知しています。
さらに、対外的にも会社を代表できる代表取締役の権限は絶大です。
ちなみに、社長・会長・専務・常務といった肩書は、会社法で定める取締役の地位とは無関係ですね。
あくまで会社慣行上の地位をあらわす名称として、社長・会長・専務・常務という枕詞があるんだ、という感覚です。
ただ、世間の常識として、通常、社長はかならず代表権があると外形上は信じられるでしょう。
また、会長となれば、代表権があるかないかはケースバイケースです。
慣習上は専務・常務の順に職位が下っていきますが、このあたりになると、さらに代表権はケースバイケースですよね。
ちなみに、万が一、社長・会長・専務・常務などの名称を対外的に明示して会社の代表者のようにふるまうなど、外部の人がその人を「会社の代表者と誤認」した場合、取引相手を保護するために、その取引を代表者との間で交わしたものとみなして、会社に責任を負わせることがあります。
これを「表見代表取締役」という論点です。
会社法第354条〔表見代表取締役〕
株式会社は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、善意の第三者に対してその責任を負う。
なお、善意の第三者とは、よく使われる法律用語で、
「当事者間に存在する特定の事情を知らない第三者」のことをいいます。
つまり、代表権がないけど、あたかも代表権があるかのように、ふるまったことを信頼してその会社と新たな法律関係に入った取引相手の利益を保護しましょうね、というお話です。
これは、公認会計士試験の企業法(かつては商法)の重要テーマの一つだと思いますよ。
以外にありそうな話ですので。
特に、規模の小さい中小企業においては、経験上、常務という肩書は微妙なことがあります。
さすがに社長・副社長で代表権がないというのは考えにくいですが、常務あたりは代表権がない、へたをするとたんにそう読んでいるだけで、会社法上の取締役ですらない、ということもあります。
いきおい、会社業務に関して専門知識を持っている個々の取締役、特に代表取締役は独走しやすいので、そのような横暴な行為をけん制すると言う意味で、取締役会とか監査役のような牽制の機能があります。
特に監査役は、制度趣旨から行くと、もっとも取締役を厳しく監視しなければならない職責を負うのですが、日本の伝統的な慣行としては、長年総務畑とか経理畑とか管理職などで会社に尽くしてくれた人向けに、功労者ポスト的に用意されることも少なくありません。
こうなると、監査役っていったい何なの?という疑問がわいてくるのですね。
企業統治といっても、現行の会社法ですべてをカバーできるわけではないので、やはり時代時代の要請で、いろいろと改正などの手当をして、より社会的信頼を得られるように改善を重ねていく必要があります。
今回、オリンパス問題を日経一面で大きく取り上げるのは、良いことだと思います。これからもあいまいにせず、その行為に応じた社会からの因果応報があるべきでしょう。
もちろん、オリンパスの役員の方々にもその後の人生はありますし、家族もいらっしゃいますので、社会常識の範囲内でという条件は付きますが、役員本人の方は、ご自身がはたして職責を十分全うしたのか?という自省は大いに必要ですよね。
そのうえでその後の人生を有意義なものにしていただきたいなあ、と思います。
繰り返しになりますが、オリンパスの役員の行く末は、他の上場企業の役員も注視していると思います。
厳しい社会の自浄作用が働くかどうか、経済社会の良識が天から問われている問題だと私は思います。