厚労省、年金積立ての前倒し解禁を検討
厚生労働省は、企業が確定給付年金制度を維持しやすいように、規制を緩める検討をしているそうです。
現状では、年金の掛け金を単年度の所要額しか積み立てられないため、景気のいい時に大目に積むことができず、反対に景気の悪い時に積立不足が生じやすい原因にもなっています。
これが、最大で5割多く拠出できるようにすることで、メリハリの利いた年金資産の積み立てができるようになると期待されています。
ここで、決算書と退職年金制度との関係を確認しておきましょう。
将来の退職に備えて企業が負担すべき、退職金の額は、バランスシートの固定負債の区分に、「退職給付引当金」として表記されます。
連結バランスシート上は、一定の金額調整を経て、「退職給付に係る負債」という科目名で表示されます。
********バランスシート
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(流動資産)****|(流動負債)
**********|***:
(固定資産)****|(固定負債)
**********|社債
**********|長期借入金
**********|退職給付引当金×××
**********|(連結上は「退職給付に係る負債」)
ここで表記されている退職給付引当金は、個別の決算書(単独の会社の決算書)において、会社が負担して支払うべき退職金の未払い額のようなものとイメージしておくといいでしょう。
具体的には、「従業員への退職給付債務」から「外部積み立ての年金資産」を控除した差額を、退職給付引当金とするイメージです。
たとえば、A社における将来の退職金の未払い債務が100億円あったとして、外部に年金資産として積み立て済みの資産が35億円あったとしましょう。
他に細かい調整項目がないと仮定すると、会社が決算日現在で負担すべきとされる退職給付引当金(負債)は100-35=65億円になります。
********バランスシート
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(流動資産)****|(流動負債)
**********|***:
(固定資産)****|(固定負債)
**********|社債
**********|長期借入金
**********|退職給付引当金65億円
**********|
いっぽうで、当期に外部の年金基金という退職金を支払う機関に、掛け金として10億円を積み立てた(掛け金を拠出した)と考えます。
この掛け金の額は、損金(税務上の費用)として扱われますので、その分に税率を掛けた額だけ節税になります。
しかし、この10億円は、将来従業員が辞めたときの退職金の原資として使用されます。
したがって、会社の負担分(退職給付引当金)が10億円減ることになるのですね。
※年金資産として10億円を積み立てた後の退職給付引当金
********バランスシート
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(流動資産)****|(流動負債)
**********|***:
(固定資産)****|(固定負債)
**********|社債
**********|長期借入金
**********|退職給付引当金55億円
**********|
つまり、退職給付債務100億円-年金資産(35+10)=55億円に会社負担分(退職給付引当金)が減少したのです。
このように、厚労省が規制緩和を検討している掛け金(積み立て額)拠出の割り増しが認められることで、景気のいい時に、退職給付引当金を減らして、将来の景気後退時に備えることが可能になるのですね。
景気がいい時は資金も余っていますから、将来に備えて資金の有効活用という観点からも、退職年金の積み立て前倒しという選択肢が増えるのは、悪いことではないかもしれません。
(日経15*7*2*1)