武田薬品、運転資本圧縮で年690億円の余裕?(日経12*9*13*13)

9月13日の日経・投資財務欄における記事です。

2014年3月期をめどに、運転資本の回転率を前期比で0.5カ月圧縮する計画とのことです。

新聞では、運転資本を「運転資金」と表現していますね。

これだけの一文を見て、「ほ~、武田薬品も思い切ったことをするね!」とすぐに思い当たった方は、短期の資金管理について、かなり精通されていることでしょう。

あなたは、0.5か月の運転資本が何を意味するか、想像できるでしょうか。

この一文を理解するには、2つの知識を知っている必要があります。

(1)0.5カ月とは、いったい何の0.5カ月なのか。

(2)そもそも運転資本とは何なのか。

では、順を追ってみていきます。

(1)0.5カ月とは、いったい何の0.5カ月なのか。

ヒントは、同記事の3段目にあります。

「中期経営計画では14年3月期の連結売上高は1兆6500億円を見込んでおり、0.5ヶ月分は約690億円に相当する。」
(2012/9/13日経新聞記事13面の記事より抜粋)

以上から、「何の」0.5カ月分か、察しがついたでしょうか。

連結売上高16,500億円÷12ヵ月=1375億円…連結月間売上高

1375億円×0.5=687.5億円…連結ベースにおける月商の0.5ヵ月分

…というわけで、「グループ全体の月商の半月分」に相当する運転資金が浮きますよ、と言っているわけですね。

(2)運転資本(運転資金)とは何か。

かんたんにいうと、当面、仕入れや経費の支払いのために、余計に必要になる短期の事前資金という意味です。

ここでは、次の3つの項目が大きな役割を果たします。

さしずめ、「運転資本3兄弟」といったところでしょう。

(長男)売上債権…商品を売り上げたが、代金をもらっていない分

(二男)棚卸資産…品切れにならないよう、買っておく商品在庫

(三男)仕入債務…商品を仕入れた代金のうち、支払っていない分

3兄弟のうち、長男(売上債権)と二男(棚卸資産)は、そのまま放置しておくと、これらの合計額だけ、会社を運営していく上で、キャッシュ不足になります(運転資金の不足要因)。

(ポイント)売上債権と棚卸資産は、運転資金を不足させる要因!

三男の仕入債務は、反対に、当月仕入れたけど支払を待ってもらっているので、当面のキャッシュ不足をやわらげます(運転資金の余剰要因)。

(ポイント)仕入債務は、運転資金を当面、楽にさせる要因!

以上をT勘定の形で表現すると、つぎのようになります。

(例)新規開店を目前に控えたある日、翌月末の売上債務・棚卸資産・仕入債務の残高をそれぞれ100万円、200万円、120万円ほど増加すると予測した。

予想バランスシート(一部の増減)
売上債権 100万円          仕入債務 120万円
棚卸資産 200万円            ‥‥‥‥‥‥‥
‥                運転資本 (180万円)
                       ↑
                    事前に用意が必要

以上のケースでは、翌月末までに180万円の運転資金が不足するということが予想されています。

つまり、短期的な事業運営を行う上で、事前に準備しておかないと資金不足なってしまう分のことを、「運転資本」というのですね。

これは、設備投資に必要な「設備資本」とならんで、経営者が事前に借り入れや自己資金などから調達し、事業をスタートする前に準備しておかなければならない額なのです。

事業を維持するうえでは、「短期的な運転資本」と「長期的な設備資本」の両方を意識して、資金繰りの計画をたてなければならないわけです。

武田薬品は、このうち運転資本について、0.5カ月分を浮かせて事業に役立てよう、という戦略を考えているのだろう、と考えをめぐらせてみると、興味深くこの記事を読めると思いますよ。

柴山式簿記講座受講生 合格者インタビュー
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