JVCケンウッド、借り換え減で改善(日経12*4*19*15)
2012年4月19日の日経15面です。
JVCケンウッドが、2013年3月期に借入金の条件見直しを実行することで、営業外損益が10億円改善する見通しとのことです。
2011年12月現在の借入金残高726億円のうち721億円が期間1年以内の短期借入だったそうです。
この短期借入については、毎期、借り換えをしていたようなので、借り換え時にかかる手数料などの諸経費がかさんで、相当な財務負担となっていました。
これが業績を圧迫する大きな要因の一つとなります。
一般に、借り換えに伴う事務手数料や保証料や印紙代などの租税公課など、けっこうな付帯費用がかかったりします。
当然、その分だけ融資に伴う払込額が目減りしますね。
企業の信用力が足りないと、金融機関は長期の貸し付けに応じたがりませんから、いきおい短期借入契約となり、それを借り換えし続けることで実質的な長期借入のような実体になったりすることがあります。
しかし、毎期のように借り換え事務が発生すると、かなりの付帯コストになることでしょう。
この点、車載機器の販売拡大などで業績が回復し、3月末までに金融機関との借り入れ条件の改善交渉がまとまったと同紙では報じられています。
2013年には借り換えの字の手数料がほぼなくなると見込まれています。
ご参考までに、JVCケンウッドの2011年3月期の損益計算書を見ると、次のような数字が確認できます。
◎経常利益7,579百万円
(経常利益の計算要素のうち、財務取引関係の一部)
+ 受取利息 195百万円
+ 受取配当金 154百万円
▲ 支払利息 2,697百万円
▲ 借入手数料 1,532百万円
この借入手数料という項目が、他の企業ではあまりお目にかかれない特徴的な表示科目です。
JVCケンウッドの借り換え取引の比重がいかに高いかがわかりますね。
ちなみに、企業の業績に対する金利負担が大きいか小さいかを判断する財務分析指標として、「インタレスト・カバレッジ・レシオ」というものがあります。
一般に、次の式で計算します。
インタレスト・カバレッジ・レシオ
=(経常利益+受取利息・受取配当金)÷(支払利息・割引料)
簡単に申し上げますと、経常利益に利子・配当などのインカムゲインを足した事業収益から、支払利息・手形割引料などの財務コストを割った比率を出すことで、「財務コストの何倍、事業からの利益を得ているか」という企業の財務状況を判断するのですね。
一つのめやすを申し上げますと、インタレスト・カバレッジ・レシオ5倍が、継続的に儲けを出せるかどうかの最低目標と見ておきたいところです。
この数値が5倍以下になると、その会社の金利負担は、事業戦略上、かなり注意しなければならない、ということがわかります。
中小企業の財務体質を見る時にも参考になる基準ですよ。
そこで、JVCケンウッドのインタレスト・カバレッジ・レシオを見てみましょう。
借換手数料を支払利息の派生費用と考えて、加算しています。
(7,579+195+154)÷(2,697+借換手数料1,532)≒1.87倍
財務コストの2倍以下の事業利益なので、現時点では、そうとう財務費用が業績の足かせ要因になっていることがわかります。
これは、経営陣が優先的な戦略課題としても不思議ではありません。
いえ、むしろそうしなければ経営者失格の烙印を押されても文句は言えないでしょう。
そこで、もしもこのときの借換手数料1,532百万円がなかったら、と考えて再計算しますと…
(7,579+195+154)÷2,697≒2.94倍
たしかに、50%以上の改善がみられますので、これは非常に望ましい行動だと思います。
しかし、これでもまだ不安が軽くなる5倍以上には及びません。さらなる財務体質の改善が期待されることでしょう。
同社の自己資本比率は20.0%なので、やはり負債が総資産の80%を占め、借金の負担で苦労しているだろうな、ということが、バランスシート上からもわかります。
なお、ここで比較のために、負債をかなり活用して事業を拡大したソフトバンク、そして政府系の出資で潤沢な自己資本を持つソフトバンクの同業のNTTドコモのインタレスト・カバレッジ・レシオを見てみましょう。
<ソフトバンク>
経常利益 520,414百万円
受取利息 2,228百万円
支払利息 104,019百万円
インタレスト・カバレッジ・レシオ…5.02倍
・自己資本比率…13.3%
<NTTドコモ>
税引前当期純利益 835,338百万円 (米国基準なので、経常利益なし)
受取利息 1,326百万円
支払利息 4,943百万円
インタレスト・カバレッジ・レシオ…169.3倍
・自己資本比率…71.4%
自己資本比率13.3%と、リスクをガンガンとって事業拡大している孫正義さんのソフトバンクでも、インタレスト・カバレッジ・レシオが5倍です。
いや、この自己資本比率でむしろ金利負担を5倍上回る業績をたたき出している孫さんの経営手腕がすごい、というべきなのかもしれませんが…。
これに対して、やはり政府からの援護が手厚いな、と感じるのがNTTドコモです。
親会社NTTからの出資が60%を超える状態で、なんと71.4%もの自己資本ですから、競争上、これ自体が優位性の源泉となっています。
だから、170倍近いという、とても比較にならない高い数値を出しているのですね。
おなじ携帯通信事業でしのぎを削っているソフトバンクとNTTドコモの好対照な財務体質が、ここでも浮き彫りになった格好です。