上場企業ののれん代が増大、業績の足かせに?(日経12*4*5*15)
日経新聞が3月期決算の上場企業567社を対象に、2011年12月末時点の
「のれん」を集計したところ、合計額が9兆5000億円にも上ったそうです。
これを567社で割ると、1社平均でのれん代の残高が167.5億円もあることになります。
ちなみに、集計対象の上場企業における総資産対のれん比率が約4%とのことですので、逆算すると…
167.5億円÷0.04=4,187.5億円の総資産を平均して所有していることになりますね。
<柴山式分析法>
なにかひとつ、数字データを入手したら、それを他の数量データなどと
組み合わせて、別の加工データを出してみる、ということを必ず一回はやってみます。逆算、平均、合計、増減率など…
これ、分析展開力を高めるコツですよ。
のれん代の多い企業のリストが同紙面に載っていました。
1位はJTで9,931億円です。
決算短信を見に行ってみると、同時期におけるJTの総資産は3兆5,292億円だったので、総資産対のれん比率は、なんと
28.1%!
にも上ります。
(参考:JTのIR情報より http://www.jti.co.jp/investors/index.html )
JTの経営戦略上、のれん代が他の上場平均の4%を7倍以上も上回る、ということは、のれん代が発生するような取引の重要性が非常に高い、と言えそうです。
つまり、M&Aですね。
ちなみに、ランキング6位の武田薬品はのれん代が5,220億円、総資産が、3兆4,213億円で、のれん代比率が15.2%です。
製薬会社は、研究開発への投資をかなり多く必要とする業種です。M&Aによる事業拡大戦略は、おおいに納得いくところですね。
なお、昨年9月に大型M&A案件として出たスイスの製薬大手ナイコメッド買収(1兆1000億円)のときは、新興国に販路を持つナイコメッドの買収は成長の取り込みに不可欠、という社長のコメントが参考になります。
特許や新技術を手に入れるだけでなく、販売チャンネル拡大という目的で買収を行うこともあるわけです。
ここで基礎知識です。
【のれん】
企業を合併・買収した時の持分(純資産)の価値と買収価格との差額のこと。
【ポイント】
持分(純資産) < 買収価格 のときは、資産としての「のれん」
買収価格 < 持分(純資産) のときは、負ののれん(特別利益)
が計上されます。
(ケース1)
A社は、B社の製薬事業(純資産100億円)を現金120億円を支払って買収した。
製薬事業のバランスシートの状況は、次のとおりである。
総資産(時価) … 500億円
総負債(時価) … 400億円 (-)
純資産(時価) … 100億円
(A社の仕訳)
(単位:億円)
(借方) 総資産 500 (貸方) 総負債 400
のれん 20 現金 120
ここで、借方(左側)に出るのが世間で「のれん代」といわれるものです。
のれん20億円は、日本の会計ルールでは、20年以内の期間にわたって定額などの償却をします。
資産としてののれん代が増えるほど、その償却費が負担となって、企業の業績の足を引っ張ることになるのですね。
これについては、日本の会計ルールと国際会計ルールとのあいだで差があり、日本企業が業績比較上、不利になると考えられる原因の一つになります。
(国際ルールでは償却不要説を採用しています。)
また、途中で、買収した事業が不振に陥るなどして、のれんの価値が著しく下がったような場合は、いわゆる「固定資産の減損会計」という、バッサリ損切りする会計処理の対象ともなります。
(ケース2)
C社は、D社の製薬事業(純資産100億円)を現金90億円を支払って買収した。
製薬事業のバランスシートの状況は、次のとおりである。
総資産(時価) … 500億円
総負債(時価) … 400億円 (-)
純資産(時価) … 100億円
(C社の仕訳)
(単位:億円)
(借方) 総資産 500 (貸方) 総負債 400
現金 90
負ののれん発生益 10
…と、このように、差額の10億円は収益とします。
損益計算書上、特別利益の区分で扱います。
会計の専門家を目指す方以外は、ざっくりと
「安く事業を買収できたから、その分は利益にしましょう」
という感じのイメージでいいと思います。
「負ののれん」というように、「負」という言葉がついていると、何か損した気分になりますが、これは事業を売却する側の株主にとっては、安く売るので損した気分ですね。
のれん代という言葉、M&Aの記事が出る時にはときどき登場してくるので、この機会に覚えておきたいところです。