政府、東電への出資に種類株の活用を検討(日経12*3*15*1)

東京電力の経営再建に向けた資本注入に際して、政府の原子力損害賠償支援機構は、普通株式の取得に加えて種類株式の取得も検討するようです。

3月15日の日経朝刊1面で報じられています。

機構は、東京電力の財務体質を強化するために1兆円にものぼる規模の資本注入をすることになりそうですが、そのさいに経営改革をすすめるために、議決権の3分の2、少なくとも過半数以上を持つ必要があるとの考え(枝野経産相)を示しています。

議決権の過半数を持つばあいには、取締役の選任・解任や決算の承認など、経営の基礎的条件に関する意思決定権を握ることになります。

議決権の3分の2以上を持つと、以上にくわえ、合併をはじめとする企業の事業再編に関する決定や、会社の根本規則である定款の変更ができるなど、かなり決定的な会社の経営権限を手にすることになるのですね。

この点、あまり経営に口出ししてほしくない現経営陣との間で、意見の衝突が起きるのはいたしかたないところです。

そこで、ひとつの調整案として、

(1)議決権の過半数を普通株式(通常企業が発行するタイプ)で取得

(2)それ以上は種類株による出資で、ワンクッション置く。

のようなことが考えられているようです。

ここで、(2)種類株式についてですが、配当や議決権の内容などについて、通常発行される「普通株」とは異なる内容の株式を種類株式といいます。

代表的なのは、議決権に制限があるけど、配当に優先的な権利を持つ優先株ですね。

たとえば、かつて大手銀行への公的資金注入で採用されたタイプとして、普通株式への転換ができる配当優先株の発行がありました。

これなどは、状況によって議決権のある普通株への転換もあるわけですから、株式を発行した銀行にとっては、発行当初は議決権がないにしても、将来経営権の一部を握られるプレッシャーにさらされるわけで、それなりの経営引き締めの効果が期待できたわけです。

実際、その後はかなり銀行経営に良いほうの影響を与えたような印象を受けます。

今回、政府が東京電力に対する出資で検討される可能性があるのが、当初は議決権がないけれども、その後、原価削減や業績面での経営努力目標を達成できなかった時に普通株に転換できる権利などをつけることで、潜在的な議決権を握ることになるタイプの種類株を利用する方向ですね。

ちなみに、会計処理についてのお話ですが、日本の現行における会計ルールでは、会社法(法律)の手続・考えが大きく影響し、普通株であろうと優先株などの種類株であろうと、株式の発行による出資の払込という側面を重視して、

(借方)現金預金××円(貸方)資本金××円

のように、日商3級・2級の「店主や株主による元入れ、出資払込」と同様のシンプルな方法になります。

この点、国際会計基準はことなりますので、注意が必要です。

IAS32号というところで規定されているのですが、こちらでは法的な概念・形式よりも経済的な性質(将来、現金などの資産流出があるかどうか)などを検討して、負債と資本の線引きをします。

したがって、たとえば種類株式という法的な形態をとっていても、日本では資本金の増加になるかもしれないけど、種類株の内容次第で、その性質が金融負債であると考えられれば、日本基準では資本金などとして処理されていても、国際会計基準では負債として処理するケースが出る可能性もありそうなのですね。
なお、種類株を取得する側(ここでは政府)での会計処理は、その種類株の内容がたとえば債券(公社債)と同様の性格を持つと考えられるならば、債券の評価と同様に取り扱うことが適当とされています。

こちらは実態判断の要素がはいっているのですね。

債券という扱いならば、発行側は「社債」といってバランスシート上、負債項目になりますから、発行側と取得側の温度差が、日本基準のおもしろいところではあります。

(取引例)
A社は、B社に対し、15億円の社債と10億円の種類株を発行した。
なお、出資の払込については、すべて資本金とする。

(発行側:A社)
バランスシート
(資産)          (負債)
現金預金 25億円      社債  15億円
            (純資産)
             資本金 10億円

B社は、A社発行の15億円の社債と10億円の種類株を取得した。
この種類株は、一定時期に一定額で償還するとの定めがあり、償還が確実と見込まれている。

(取得側:B社)
バランスシート
(資産)
投資有価証券 25億円
(債券として評価)

以上、東京電力への種類株式による資本注入の会計的な検討でした。

柴山式簿記講座受講生 合格者インタビュー
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