パート300万人に厚生年金負担を拡大する案が浮上(日経12*2*9*5)

日経新聞2月9日5面の朝刊記事で、また意味不明な政策案が浮上しました。

5面だけに、まさに「ごめんなさいね。パートの方たち…」なんて、
「ゴメンで済んだら警察いらねえよ!」という落語の落ちみたいなお話です。

このような制度の経済に与える影響がどうなるか、真剣に試算したとは思えないバカバカしさですよ。

ともあれ、内容を見ていきましょう。

「パート労働者への厚生年金・企業健保の適用拡大を巡り民主党内で
「300万人」の加入拡大を目指す案が浮上した。これまで100万人の加入を模索していたが、一気に3倍に増やす内容だ。…

…たとえば「週20時間以上」「年収65万円以上」という条件で…

…300万人の加入拡大が見込めるという。…

300万人案には解散総選挙を意識し、目に見える実績を作りたいとの思惑がのぞく。」

(日経朝刊2012年2月9日5面より一部引用)

カチンと来たのは引用の最後の下りです。

「…おいおい。お前さんらがいい顔するための帳尻合わせにパートの家計を犠牲にするなよ(怒)。」

こういうことです。政権を担う人の本音がでましたね、ちらりと…。

日本経済のことなんてちっとも考えてないのではないか、と思いたくなってしまいますね。

ちなみに「会計」的なお話をしますと、アルバイトやパートさんの給料などは、簿記の教科書では「雑給」という勘定科目になります。

正社員だと「給料」勘定です。
工場の正社員だと「賃金」勘定です。

そして、日本の雇用慣習上、基本給とか諸手当とか社会保険料とかの対象は、「給料」とか「賃金」とかの正社員を想定したものですから、社会保険料などの社会福祉費用につき、会社負担分は「福利厚生費」とか「法定福利費」という勘定科目で費用計上されます。

雑給で勘定処理されるアルバイト・パートの方に、多額の法定福利費が、ひもつきで計上される、というのはなんともいびつなかんじですね。

しかし、今回の記事の本質は、会計的な処理の問題よりも、ミクロ経済への洞察力、マクロ経済の視点の考察力が著しく欠如した悪法になるのではないか、という疑問の方がよっぽど大きいです。

そこまでして「税収を下げたい」のでしょうか。
あるいは、税収が下がらないと本気で思っているのでしょうか。

では、ここからは経済のお話です。数字で試算しましょう。

政府案では、300万人を対象に、年収65万円以上といっていますが、裏のターゲットはおそらく「配偶者控除の上限収入103万円以下の主婦」と私は睨んでいます。

つまり、年収65万円~年収103万円の主婦層の収入が狙われているのですね。

月収に直すと、5.4万円~8.6万円のパートさんを主な的とした狙い撃ちです。(柴山の私見です、ご参考まで。)

上記のメイン対象以外にも適用者はいると思いますが、ほぼここが狙われていると見て間違いないでしょう。
どこまで夫婦共働きの必死の収入をはぎ取ろうとするのでしょうか。

これじゃ、消費税アップとあいまって、消費が一段と冷え込み、デフレ
スパイラル強化になることうけあいなのに…。

【まずは、ミクロの分析です】

仮に時給900円、月80時間パートで働く主婦をモデルに、現行の制度を前提に試算してみました。

月給72,000円、年齢は30代前半の給与収入のイメージです。

そうすると…。

(月額の社会保険料)
全額
健康保険料 5,576 円
厚生年金保険料 16,084 円
児童手当拠出金 127 円

うち
本人負担額(折半額)      ※残りは会社の「法定福利費」
健康保険料 2,788 円
厚生年金保険料 8,042 円
合計「10,830」円

10,830円も、パートの給料から天引き?????

はい、もうおわかりですね。

72,000円の給与から、10,830円ずつ手取りが減ります。
手取りは6万1170円です。

一生懸命、毎週20時間、月に80時間働いても、そのうち1万円は自分のものになりません!

【次にマクロの分析です】

※平成24年度の予算案より(1千億円以下四捨五入)

税収    42兆円(うち消費税10兆円、所得税13兆円、法人税9兆円)
その他    4兆円
公償金    44兆円(国債発行による借金増。これが赤字になります。)
収入     90兆円

(参考)1990年代の税収は、良い時でおおむね50兆円強。
消費税5%に引き上げ後(1997以降)は、中長期的に税収減少。

社保障    26兆円  (社会保障関係費)
国償費    22兆円  (利払10兆円。元本返済12兆円。)
交付等    16兆円   (地方交付税等)
文教等    5兆円
防衛費    5兆円
公共事    5兆円
その他    11兆円
支出計    90兆円

けっきょく、社会保障関連支出26兆円をなんとかしない以上、ちょっとやそっとの増収では毎年44兆円の国債発行の流れは絶対に立ちきれないのです。

つまり、個々に「1000億円規模程度」の改革をちまちまやったところで、一般会計に代表される財政は劇的な改善をみることはなく、ゆるやかな国庫の衰退につながるでしょう。

ここで、社会保障に充てるため、パート300万人に年間12万円ずつの社会保険料の負担を強いたとします。

これが国庫にどれだけ有効かを試算すると…

12万円×300万人=3600億円ぽっちです(爆)。

社会保障費26兆円ですよ。
2010年の1人当たり高齢者の社会保障給付費は約400万円です。なんと、1980年の1人当たり高齢者の社会保障給付費は約230万円でした。

当時から約70%のアップです。

今後もこの数字は伸びると思われます。

これが26兆円のどの程度を占めているか分かりませんが、パートに社会保険料の負担を3600億円増やした所で、いかにむなしい焼け石に水か、は自明ですよね。

けっきょく、現政権の点数稼ぎの政策となって、その後、主婦の財布のひもがさらに固くなって個人消費の低迷、さらなるデフレ、経済収縮、法人税・所得税の税収減という悪夢のシナリオが加速される、という私のネガティブな妄想が杞憂に終わることを切に願うばかりです。

以上、今回の記事は、会計というより、その根本となる経済にとってどうあるべきか、を考えさせる話題でしたね。

みなさんはいかがお感じになりましたか。

柴山式簿記講座受講生 合格者インタビュー
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