直接原価計算と全部原価計算のちがい

ここからは、「利益管理のための原価計算」について、考えていきましょう。

原価計算を学習する出発点は、「原価をコントロールする」という動機付けから始まります。

会社が存続するために一番大事なものは十分な利益ですね。

もっというなら、一番大事なのは粗利(売上高‐売上原価)、その次に大事なのが営業利益(粗利‐販売費および一般管理費)です。

利益が出なければ、給料も家賃も払えません。
 
ですので、原価のコントロール手法を学ぶだけでは、企業経営管理という観点からは、片手落ちなのです。

これまで学んだ原価計算の方法は、「工場で発生した費用すべて(変動費+固定費)を公平・正確に各製品へと配分しよう!」という考え方に基づいています。

つまり、「原価を漏れなく各製品に振り分ける!」というコンセプトです。

このように、工場でかかった費用をすべて、漏れなく売上原価にも期末の製品・仕掛品在庫にも配分しよう、という原価計算方法が、いままで私たちがいっしょに勉強してきた方法で、「全部原価計算」といいます。

まあ、「工場でかかった費用を、全部各製品に原価として集計する計算方法」と理解しておいてください。

これに対し、利益を正しく計算する、という違った観点から、あえて工場で発生した原価の一部(固定費)を売上原価と在庫の製品・仕掛品に配分しない「直接原価計算」という計算形態があるのです。

なぜ、固定費(常に一定額かかる費用)を売上原価と期末の製品・仕掛品に配分しないという手続が、利益管理に役立つか、という話は、次節以降でもう少し詳しくご紹介いたします。

まずは、全部原価計算と直接原価計算という2つの用語を、なんとなくでいいですから、頭に入れておいてください。

直接原価計算と全部原価計算のちがい

②変動費と固定費の分類

ここでは、直接原価計算という方法を採用する前提知識として、変動費と固定費について学んでいきます。

たとえば弁当を作っているお店の厨房を考えてみますと、弁当1個をつくるのに、ごはん、おかず、容器、はしなどの材料が必要ですね。

そして、これらの材料費は、弁当の製造・販売数量が増えるほど、それに比例して増えていきます。

今話した材料費のように、製造・販売数量に比例して増加したり減少したりする費用のことを、「変動費」といいます。

材料費・労務費・経費といった原価の三要素のうちでは、材料費のほとんどが変動費といえます。

お弁当屋さんの話に戻ります。

弁当を作る厨房には、炊飯器、冷蔵庫、洗面台、その他の器具類などがあります。

こういった固定設備の所得に要した支出額は、減価償却費という名目で、各期に費用配分します。

また、店舗の賃借料も固定でかかりますし、そこで働く店員さんの中には、固定給制の人がいるかもしれません。さらに、電気代、水道代、ガス代などには、毎月かならずかかる基本料金の部分があります。

このように、毎月の製造・販売量の増減にかかわらず、常に一定額かかる費用のことを、「固定費」といいます。

固定費は、店舗を維持し、営業を成り立たせるためにかならずかかる費用です。

したがって、経営管理上は、売上と直接的な比例関係のある変動費と固定費を区別し、最低でも、「経営を維持するために必須の費用、すなわち固定費」をまかなう額の利益をいかに獲得するか、という考え方で計画を立て、実行していかなければならないのですね。

この固定費も、工場で発生する原価であることから、変動費と一緒に「売上原価」や「期末の製品・仕掛品の在庫」に配分しよう、というのが全部原価計算であり、変動費のみを売上高に関連付けて「売上原価」や「期末の製品・仕掛品の在庫」に配分しよう、というのが直接原価計算なのです。

なお、変動費と固定費を分けるときは、実務的には、費用項目の一覧を見ながら、費目別にひとつずつ、現場の実態に合わせて「これは変動費、これとこれは固定費」のように、企業内で共通の基準を儲けて分類するとよいでしょう。

費目別に変動費と固定費を分けていくやり方を「費目別精査法」といい、現場の感覚で導入しやすい分類法です。

柴山式簿記講座受講生 合格者インタビュー
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