日清商品など、年金債務が収益を圧迫

日銀のマイナス金利が影響して、年金債務の負担が増加することになり、これが企業の業績を下方に押し下げる要因となってきそうです。

判明しているだけでも、関連費用が1000億円を超えた、という話も出ています。

以前にも、ご説明しましたが、ここであらためて、従業員の退職金に関する会計処理のやり方についてプチ解説していきましょう。

期末時点で在籍する従業員につき、将来の退職時に支払われると、見積もられる退職金の未払額を、一定の計算方法によって見積もり、バランスシートの固定負債の部に計上します。

ここで、退職金の未払見積もり額を「退職給付債務」と呼びます。

なお、外部に年金資産を積み立てている場合は、退職給付債務から、年金資産の時価評価額を差し引いて、その不足額を「退職給付引当金」という名称でバランスシートに計上します。

なお、個別決算をもとに連結決算を行う際には、一定の調整を経て、「退職給付にかかる負債」と表示科目名が変化します。
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【バランスシート(個別決済)】
 (資産)  | (流動負債)
  :   |支払手形及び買掛金  xxx
  :   |   :
  :   |(固定負債) 
  :   |   : 
  :   |退職給付引当金 xxx
  :   |   :
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【バランスシート(連結決算)】
 (資産)  | (流動負債)
  :   |支払手形及び買掛金  xxx
  :   |   :
  :   |(固定負債) 
  :   |   : 
  :   | 退職給付に係る負債 xxx
  :   |   :
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こまかい調整を抜きにし、年金資産がない、または年金資産の額が全く同じだと仮定するならば、おおむね、退職給付債務が増加すれば、会社の業績上、退職給付に関連する費用も増加して、企業の業績を圧迫することになります。

退職給付に関連する費用を「退職給付費用」という表示科目で、損益計算書に表示することがあります。

(例)
従業員の勤続年数が増加することにより、退職給付債務が前期末の100億円から、当期末に112億円となった。

ほかの条件等は考慮しないとすると、退職給付費用は、112億円-100億円=12億円となる。

連結決算ベースで表示してみる。

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【バランスシート(連結決算】
 (資産)  | (流動負債)
  :   |支払手形及び買掛金  xxx
  :   |   :
  :   |(固定負債) 
  :   |   : 
  :   | 退職給付に係る負債 112億円
  :   |   :
—————————————–
【損益計算書】
 売掛金
  :   
退職給付に係る負債 112億円   
  :   
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なお、たとえば現在までの従業員の働きに対し、今から6年後に1000万円の退職金を支払うことになる、と見積もられたとしましょう。

現在の金利が年1%であったと仮定すると、6年後の1000万円の支払に備えるために、必要な現在の資金は、つぎのように計算できます。

元本(1.0)+金利(0.01)=1.01

1000万円(6年後)
÷1.01÷1.01÷1.01÷1.01÷1.01÷1.01
=約942万円

このように、金利1%の世界では、6年後の1000万円の価値は、現在の942万円に等しい、と考えられます。

金利1%における6年後の1000万円の割引現在価値は942万円となるわけですね。

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【バランスシート(連結決算】
 (資産)  | (流動負債)
  :   |支払手形及び買掛金  xxx
  :   |   :
  :   |(固定負債) 
  :   |   : 
  :   | 退職給付に係る負債 942万円
  :   |   :
—————————————–

ここで、金利がもしもゼロに下がったら、退職給付にかかる負債はどうなるでしょうか。

金利がゼロならば、割引率は1.0+0.00=1.00ですね。

したがって、6年後の1000万円は、金利がゼロならば、やはり現在価値でも1000万円です。

そうなると、バランスシートの表示は次のように、割引率1%のときの942万円よりも58万円多い1000万円です。

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【バランスシート(連結決算】
 (資産)  | (流動負債)
  :   |支払手形及び買掛金  xxx
  :   |   :
  :   |(固定負債) 
  :   |   : 
  :   | 退職給付に係る負債 1000万円
  :   |   :
—————————————–

こうなると、金利の下落すなわち割引率が下がることで、退職給付に係る負債が増加します。

そうなると、退職給付費用も増加することになるだろうな、と想像することは容易ですね。

なお、この日の新聞では、このような年金債務の増加による費用負担アップの例として、日清食品ホールディングスの2017年3月期における予想の数十億円規模や、住友不動産の同時期における数億円増加、あるいは三井金属の数十億円の費用が生じる可能性が指摘されています。

金利が下落する局面は、いっぱんに、経済がデフレ状態の後退局面であることが多く、それはすなわち年金資産の収益性の低下にもつながります。

企業はダブルパンチで、年金会計による業績悪化の影響を受けるリスクがあるわけですね。

(日経16*4*25*1)

柴山式簿記講座受講生 合格者インタビュー
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