日立や三菱重工がROEを経営目標に導入(日経15*3*17*1)
日立は、2017年3月期から3年間の中期経営計画で、はじめてROEを経営指標に取り入れるとのことです。
2015年3月期は約9%の見通しということで、10%超を目標とすることを検討します。
ここで、ROE(自己資本利益率。Return On Epuity)は、当期純利益÷平均自己資本で求められます。
会社が稼いだ純利益を平均自己資本で割って求めます。
平均自己資本とは、(期首自己資本+期末自己資本)÷2で求められ、期中における平均的な自己資本の額です。
自己資本は、ほぼバランスシートの資産から負債を引いた額、つまり純資産に近いもの、というイメージでいいでしょう。
新株予約権とか親会社以外の株主の持分とか、いろいろと細かい除外事項などがありますが、影響は軽微なので、よほど専門的な分析をする場合以外は無視して、おおむね純資産の額に近いと考えて差し支えないです。
さて、日立のROE見通しの9%について、ちょっと計算して確かめてみましょう。
平成27年3月期第3四半期の決算短信を参考に、計算してみます。
自己資本として、「株主資本」の額を採用しておきます。
なお、株主資本とは、資本金+資本剰余金+利益剰余金-自己株式で求められる自己資本の中核的部分です。
資本金と資本剰余金は株主からの出資額だと考えていいでしょう。
つまり、出資額に利益の留保額を加え、自己株式を引いたものが最も重要な株主の持分額ということで、「株主資本」と呼びます。
なお、昔の会計原則に基づく「資本の部」は、まさにこれです。
<日立製作所・平成27年3月期第3四半期決算短信より>
・株主資本:2兆8,734億円(前期末比増減は+2,221億円)
・当社株主に帰属する当期純利益予想:2,500億円
以上より、まずは前期末から第3四半期末までの期間における平均自己資本をもとめます。
<平均自己資本>
2兆8,734億円-2,221億円÷2
または
(2兆8,734億円-2,221億円+2兆8,734億円)÷2
=2兆7,624億円
次に、当期純利益(当社株主に帰属する部分)を平均自己資本で割ります。
2,500億円÷2兆7,624億円=9.05…%
たしかに、ちょうど9%位の数字になりましたね。
ここで補足ですが、「当社株主に帰属する当期純利益」とは、いいかえれば「親会社である日立製作所の株主の持分となる当期純利益」を意味します。
もう少し具体的に言うと、日立グループ全体で稼ぐ利益は、親会社(日立製作所)の利益プラス子会社の利益、となりますね。
ここで、親会社である日立製作所の利益は、すべて日立製作所の株主に帰属します。
ここまではOKですね。
つぎに、子会社ですが、日立製作所が100%の株式を所有している完全子会社ならば、その子会社の利益は全て日立製作所を通じて日立製作所の株主の持分に帰属します。
しかし、たとえば70%のように、株式の一部を他の者が所有している「部分所有」の状態だと、日立製作所以外の株主に帰属する利益部分が出てきます。
現在の会計基準では、「非支配株主持分」といいますが、子会社の利益の一部は、部分所有の場合、親会社である日立製作所の株主に帰属しないことになる、という背景があることを知っておくと良いでしょう。
これは、日商簿記1級レベルの知識になります。
以上、たしかに日立製作所のROE見込みは9%でしたので、これを10%以上に引き上げたい、という希望はよくわかります。
また、三菱重工は2009年~2013年度は、平均で5%弱のROEだったそうです。
5月に発表する2016年3月期から、3年間の事業計画でROEの目標として10~12%を目指すとのこと。
過去5年のレベルから、いっきに倍以上!ということになりますが、これは直感的に見て、3年という短い期間で達成するには、かなりシビアな目標値だと思います。
参考までに、三菱重工の平成27年第3四半期の決算短信より、予想のROEを計算してみると…
<平均自己資本(前期末と第3四半期末の平均)>
(1兆5,433億円+1兆6,981億円)÷2=1兆6,207億円
<当期純利益の予想>
1,000億円
<ROE>
1000億円÷1兆6207億円=6.17%
たしかに、2013年度までの平均5%弱とくらべると、数字は上がっていますね。
ただ、ここからおおむねプラス5%というのは、これだけの規模の会社ですから、容易ではないとイメージしてしまいます。
これから、大きな改善の目処がたっている、ということなのでしょう。
これまで、上場企業の決算を長年見てきた立場の勘でいうなら、達成には困難を伴うが、もしも達成できたら、株価にはいい影響があるだろうな、という印象です。
ぜひ、有言実行で頑張ってもらいたいですね。
ROEという指標は、ただ利益を増やせばいい、というだけでなく、同じ利益を上げるなら、よりすくない資本を使用して効率的に稼ぎましょうね、という意図を含んでいます。
これが、資本効率性を測る指標だと言われる所以です。
日本企業の7割はROEが1桁だということです。
平均は8.2%だそうで、アメリカの約14%、ドイツの約11%に比べると、日本の企業はやや見劣りしている、と新聞では書かれていますね。
ただ、注意が必要なのは、総資産に占める負債の割合が大きい「借金体質の会社」だと、ROEの計算式における自己資本が低くなるので、同じ利益でもROEは高くなる傾向があります。
したがって、いくらROEが高い、とは言っても、借金体質で高いケースもあるので、自己資本比率などの安全性指標も合わせてチェックする必要があります。
このように、かならずしも鵜呑みにできない部分はあるにせよ、さいきん、ROEを重視した経営をうちだす企業が増えてきているように感じます。
株価にも影響がある財務指標ですから、今後はより注意深くチェックしていきたいですね。