完全工業簿記は「費用(原価)をゼロ」にして仕掛品へ【がんばろう!日商簿記1級合格176】
がんばろう日商簿記1級合格、今回は「完全工業簿記の費用はゼロで繰り越す」というテーマでお話をしたいと思います。
これは簿記1級に限らず簿記2級の工業簿記でも役に立つので、この考え方を土台に置いて、日々の工業簿記・原価計算の学習に取り入れてみてください。
もしかしたら、個々の論点で行き詰まったときに、この発想が役に立つかもしれません。
「完全工業簿記」というのは、製品の製造過程に合わせて、仕掛品、製品というのは、そのときそのとき、きめ細かく原価を集計するやり方です。
これに対して「不完全工業簿記」あるいは「商的工業簿記」というのは、普段日商簿記検定では取り扱わないのですが、商業簿記の原理を用いた工業簿記の記帳です。
つまり、簡単だということです。
毎月の製造活動(月次)において、仕掛品や完成品の集計を行わないのです。
これを「不完全工業簿記」といって、簿記3級の商業簿記と同じようなものです。
年に1度、期末の段階で繰越商品を求めるのですが、そのときの計算の仕方が大雑把だと思ってください。
つまり、月次決算をしないと考えてください。
完全工業簿記というのは、毎月末の仕掛品と製品を細かく計算すると思ってください。
月次決算に馴染みが深いのです。
したがって、完全工業簿記=月次決算と思っていただいてもいいくらいです。
なぜかというと、年に1回、期末の段階で仕掛品や製品の評価をしても遅く、管理会計に役立たないのです。
正確な原価の計算も大事ですが、管理会計の本質は、毎月迅速に意思決定をすることです。
だから管理会計というのは業績管理なのです。
商業簿記に業績管理の発想は出ないのです。
ということでいくと、工業簿記の目的は何かというと、簡単に言うと月次決算なのです。
学問的な精密さは無視して、完全工業簿記は月次決算と同じ発想だと思って構いません。
つまり、毎月正確な仕掛品と製品を求めるという点です。
そうすると、必ず仕掛品勘定または製品勘定に各製造原価を集計するので、完全工業簿記においては、必ず賃金勘定や間接費といった製造原価の費用はゼロにして、仕掛品に配分し尽くすのです。
配分には2つあって、材料費なら直接費の直下、そして間接費の配賦といいます。
要するに、いくら仕掛品にその金額を配分するかです。
直接労務費だろうと製造間接費だろうと、こういったものは結局、仕掛品に全部配分しますから、たとえば、賃金に「借方 C」という金額(支払額)があったら、貸方のCの振替は基本的にはぜんぶ仕掛品にいくのです。
予定賃率や標準原価を使った場合は配分もれがありますので、その場合の差額は例外的に「原価差異」という勘定科目にいって、日商簿記検定1級では、原価差異勘定は月次では繰り越されて、ゼロになりません。
12か月繰り越されて、年度末に売上原価に加算してゼロにするのです。
このイメージが大事なのです。
原価差異だけは月次で繰り越しますが、それ以外の、賃金や間接費などの費用科目はすべてゼロにします。
そして、月次損益勘定に最後はいくわけです。
売上原価をFとして、賃金Cや間接費Dを仕掛品にいったん集計して、仕掛品のうち完成したものをE(資産グループ)から製品の資産に振り返られました。
製品のEのうち完成したものをFとすると、Fだけ払い出されて、売上原価という費用になります。
結局、材料のB、賃金のC、間接費のDは、最後はFの部分だけ払い出されて売上原価として返ってきます。
売上原価のFも、月次損益に振替されます。
損益振替は簿記3級でやっています。
販売費・一般管理費は仕掛品を通さずに、いきなり月次損益にいくのがポイントです。
売上はAで貸方です。
そうすると、月次損益のAの売上からFの売上原価とGの販売費・管理費を引いた差額、月次損益を出すのが完全工業簿記の目的です。
これが原価管理の本質です。
原価管理の本質は月次損益を出すことです。
月次損益を出して、それが予算と違うのはなぜなのかというのは次の話です。
まずは正確な月次損益の算定をすることが第一です。
毎月迅速に月次損益を出して、月次損益勘定に振り返るのが工業簿記の本質です。
つまり、月次損益のFを出すために原価計算があるのです。
このFが予算よりも悪い場合、なぜなのかというのは次の標準原価や予算実績差異分析の話であって、基本は賃金Cや間接費Dを仕掛品勘定からトンネルをくぐって最後に売上原価のFになり、あとは、期末の製品の残高や仕掛品の残高を正確に出す。
そのために、結局は、賃金勘定や間接費勘定は仕掛品にいくためにゼロにします。
借方のCと貸方のCは同じで、借方のDと貸方のDも同じなので、賃金や製造原価項目が、もし月末の段階でゼロにならなければ、それは振替が間違っていますので、何かが違うのです。
賃金や間接費は必ず仕掛品にいきます。
製造原価に関しては、いかないものは原価差異しか本来はありません。
例外的に非原価項目というのがありますが、これはレアケースです。
ほぼ仕掛品勘定にいきます。
仕掛品のうち、完成したものが製品で、製品のうち払い出したものが売上原価です。
結局、売上原価で返ってくるのです。
賃金勘定などはいったん仕掛品勘定にいきますが、渡り鳥のようにずっと払い出して、最後は完成して払い出して売上原価にいって、売上とぶつけられて月次損益を出すのです。
月次損益を迅速に出すためにあるのです。
もっと速くするために、標準原価とか予定賃金や予定配賦というものがあるのです。
計算の迅速性というのはここまで大事なのです。
一般的な専門学校では計算の迅速性というのはあまり強調されませんが、実務では致命的なぐらい大事です。
私は経営者なのでわかりますが、迅速な計算こそが命です。
これを踏まえて工業簿記の勉強をしてください。
だから、賃金や製造間接費はすぐにゼロにしたいのです。
ゼロにして繰り越すのです。
これを覚えておいてください。
完全工業簿記においては、毎月、費用は必ずゼロにして、必ず配分のもれがないようにします。
これを覚えておくだけでも違います。
この機会に、柴山式の工業簿記・原価計算の勘定連絡をマスターしてください。
柴山式の簿記を勉強された方は、工業簿記と原価計算を得意にされる方が多いです。
現在の工業簿記・原価計算はどちらかが満点を狙えるケースがあります。
製造原価の費用項目は必ずゼロで配分し尽くさないとおかしいということを知っておくと、あなたの勉強の幅が広がります。
ぜひ参考になさってみてください。
今回もご視聴いただきまして誠にありがとうございました。