包括損益悪化ランキング1位はパナソニック(日経12*2*25*15)
2011年4月~12月期を対象に、日経新聞が3月決算で包括損益を開示している1558社(金融、電力、新興以外)を集計しました。
包括損益の合計は2兆4366億円のプラスで、前年同期比で64%も下がったのだそうです。
ここで会計知識です。
☆包括利益とは
ある会計期間における純資産の変動額のうち、増資・減資をはじめとする
株主等の持分の直接増減を除いた部分を言います。
(例題1)
期首の資産は500、負債は150、純資産は350だった。
期末の資産は640、負債は150で、純資産は490に増加した。
当期中に純資産は140増えたが、このうち株主からの増資の払込による額が40、ストックオプションの交付による新株予約権の払込が10あった。当期の包括利益を求めなさい。
(解答)
当期の包括利益は90である。
バランスシート(期首)
資産 500 負債 150
純資産 350
↓
1. 増資による払込 … (資本金+40)
2. ストックオプション … (新株予約権+10)
3. 包括利益 … 90(純資産増加額140-40-10)
↓
バランスシート(期末)
資産 640 負債 150
純資産 490
このように、株主(子会社の株主や新株予約権者も含む)との直接の出資などによる増減を除いた純資産の増加部分は、株主に帰属する財産のアップになるので、これらをまとめて「包括利益」と呼ぶのですね。
では、包括利益と従来の「当期純利益」の違いは何か、といいますと…
包括利益=当期純利益+その他の包括利益(株の含み益など)
(例題2)
上記3.包括利益90のうち、35は手持ちの有価証券の評価差額
(含み益)だった。当期純利益はいくらか。
(解答)
包括利益90-その他の包括利益35=当期純利益55
このような式でイメージされるとわかりやすいでしょう。
その他の包括利益をもう少し詳しく見ていくと…
☆その他の包括利益の内容のうち、主なもの
1.その他有価証券の評価差額(一定の株式などの含み損益)
2.繰延ヘッジ損益(一定のデリバティブ取引の含み損益)
3.為替換算調整勘定(海外子会社の財務諸表の換算調整分)
こんなものがあります。
項目を見ていくと、いかにもむずかしそうですね。
無理もありません。
すべてこれらは「日商簿記1級レベル」のお話です。
言いかえると、日商簿記1級レベルはもはや会計実務の専門家レベルと言っていい高い水準の知識が身につく資格なのですね。
日経新聞も、時として1級レベルの知識にかかわるお話しが出ることがあるので、あなどれません。
なお、現行の制度では、連結決算にのみ包括利益計算書の開示が要請されています。
日経新聞は、このような背景を持つ包括利益を集計し、前年同期比で64%も下がってしまった!ということを報じてくれたのですね。
理由としては、本業の業績不振、円高や株安にともなう資産の目減りが大きかったようです。
資産の含み損が多くなると、いくら本業で当期純利益を稼いでもトータルとしての包括利益が減少し、これが赤字となれば包括損失になりかねません。
ちなみに、この時のランキングの悪化額トップはパナソニックでした。
金額にして4,790億円。すごい額ですね~。
2位がホンダで、2,971億円の悪化額、3位がソニーで、2,601億円と続きます。
上位の顔ぶれを見ると、電器・自動車メーカーがほぼ独占状態と言ってもいいでしょう。
包括利益は、世相を反映する会計データとして、今後、それなりに企業分析上、参考とされる場面も出てきそうですね。