株式時価総額
1会社の値段をあらわす「株式時価総額」(再現2005.12.6)
「株式時価総額」という経済用語があります。
簡単に言うと、ある会社の「発行済み株式数」×「株価」=株式時価総額
となります。
さて、この株式時価総額、バランスシートでは、どの部分になるでしょうか。
バランスシート
―――――――――――――――――――
(資産) | (負債)
|
|―――――――――
| (資本) ←この部分です。
|
|
―――――――――――――――――――
…しかし、この図だけを見ていたのでは、ぜんぜんピンと来ませんね。
では、もう少し踏み込んで考えてみましょう。
(取引1)A社は、株主から2000万円の出資を受け、さらに銀行から
1000万円の借入れをし、3000万円の現金預金を
もって事業を開始した。
バランスシート(期首)
―――――――――――――――――――
(資産) | (負債)
現金預金 3000|借 入 金1000
|―――――――――
| (資本)
|資 本 金2000
|
―――――――――――――――――――
(取引2)A社は、その後600万円を敷金として差し入れ、
都内にビルの一室を賃借した。(賃借期間2年)
バランスシート
―――――――――――――――――――
(資産) | (負債)
現金預金 2400 |借 入 金1000
|―――――――――
差入敷金 600 | (資本)
|資 本 金2000
|
―――――――――――――――――――
ここで、差入敷金は、2年後に部屋を出て行けば原則として
600万円が帰ってくるはずなので、大家さんへ預けた資産です。
そして、長期間保有する資産ですから、「固定資産」といいます。
なお、ここで、差入敷金の評価額は、当初の現金支出額、すなわち
「原価」です。
そして、バランスシートの右側にある借入金1000も、資本金2000も、
当初の現金受入額に基づく額です。
いってみれば、当初出資を受けた資本金2000という数字は、もとの
株式の値段と考えることができます。当初の帳簿上の記録額です。
このように、帳簿に記入されている金額を「帳簿価額」とか、「簿価」とか
いいます。
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「差入敷金」の帳簿価額600は、「原価(当初の支出額)」に等しい。
「資本金」の帳簿価額2000は、株主から払い込んでもらった当初の金額。
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以上の2点を、なんとなくでいいですから、覚えておいて下さい。
さて、その後、このA社は、ものすごく優秀な技術者が社内にいたため、
画期的な業務処理ソフトを開発しました。
これにより、A社の知名度は一気に上がり、初年度で1000万円もの
純利益を出してしまったのです。
つまり、「自己資本利益率(ROE)=40%」というわけですね。
バランスシート(期末)
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(資産) | (負債)
現金預金 3400|借 入 金1000
|―――――――――
差入敷金 600| (資本)
|資 本 金2000
|利益剰余金1000
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※利益剰余金:資本のうち、利益による資本の余裕額
※ROE40%
=1000万円÷(期首資本2000+期末資本3000)万円/2
=1000万円÷平均の資本額2500万円=40%
もちろん、これからも受注が続々と来ています。
これだけの将来性がある会社ですから、A社を買収したい、という投資家
がでても不思議はないですよね。
なお、期末現在のバランスシートにおける資本(自己資本、株主資本)は、
帳簿上、3000万円の評価額となりましたね(簿価3000万円という)。
この、3000万円の簿価の資本を有するA社ですが、まだまだ将来は
ブレイクして、もっと大きな利益を株主にもたらすでしょう。
ということは、すでに「A社にはプレミアムが乗っている状態」なのです。
そんなおり、ある投資家が、A社の株式をすべて譲って欲しい、とA社の株主
に申し出たとしましょう。
そこで、あなたがA社の株主だったら、簿価の資本額3000万円で、
株式を譲渡しますか?
…答えは「No!」ですね、おそらく。
だって、もっと寝かせておけば、さらに利益を膨らませて、もっと企業価値
が高まり、配当もバンバン手に入るのが分かっているのですから、
3000万円などという現在の帳簿上の金額で譲るわけがないですね。
そこで、投資家とA社株主であるあなたとの間で、A社という会社を
いくらで売るかの「値段の交渉」がはじまります。
「今後10年間は、毎年2000万円以上のキャッシュを生むのだから、
2000万円×10年=2億円以上で買ってくれないと、割に合わない!」
とあなたが言ってみたり、
「いやいや、10年後のことは分からんよ!」
などと相手の投資家が値切って見たり、という、
まるで八百屋の店頭でくりひろげられる
おばちゃんと店員さんのやり取りのようなことが起きるわけですよ。
話が「カブ」だけに…
…
…
いや、今のは軽く聞き流してください。
もとい、結局のところ、現状、簿価3000万円の資本(株式の額)を、
1億5千万円で投資家に売りましょう、ということで交渉が成立した、
としてください。
つまり、互いのA社の売買価格は、「1億5千万円」と決まったのです。
バランスシート(時価ベース)
―――――――――――――――――――
(資産) | (負債)
現金預金 3400|借 入 金1000
|―――――――――
差入敷金 600| (資本)
|時価総額15000(資本金・利益剰余金などの
のれん 15000 | 時価評価による合計額)
―――――――――――――――――――
ちょっと強引ですが、話をシンプルにして、おおむね
上記のような感じで考えていただいたらどうでしょう。
のれんは、「ブランドやノウハウなどの、目に見えない企業の資産価値」と
考えてみてください。無形の固定資産ですね。
このように、簿価ベースの資本3000万円に対し、
A社独自の付加価値(ノウハウなどの「のれん」)があるため、それを
株式(支配権)の譲渡に際して時価評価すると、一気に1億5千万円と、
5倍の企業評価額になってしまったわけです。
上記の例のように、実物資産(現金預金、差入敷金など)の原価に
応じた、簿価ベースの資本に「将来性やのれん」など、付加価値を加味した
時価ベースの株主資本総額が、「株式時価総額」にほかならないのです。
実際、この株式時価総額を発行済み株式数で割れば、株価すなわち一株
あたりの価格がでますね。
このように、「簿価ベース」の資本の額に対して、投資家が参加する資本市場
で評価される「時価ベース」の資本の額があるのだ、ということを、
しっかりと意識しておきましょう。
なお、時価ベースの資本と簿価ベースの資本の倍率の考え方が、
「PBR(株価純資産倍率)」につながるわけです。
株式投資上は、PBRは、とても重要な指標といえます。
その基本的な理解に役立てば、幸いです。
2日経平均1万5000円を回復(2005.12.2*1)
12月1日の東京株式市場では、日経平均株価が大幅に上がり、終値では
ほぼ5年ぶりの15000円台となりました。
2003年4月のバブル後最安値である7607円の約2倍、すなわち
15130円となったわけです。
東証1部・2部の株式時価合計も、508兆円と、バブル期の600兆円
の8割ぐらいまで回復しました。
ちなみに、この日の日経で、株式時価総額を「きょうのことば」として
3面にて説明していますね。
こちらもご一読をおすすめします。
株価総額上位10銘柄の企業名をチェックするのも面白い。
たとえば、1位のトヨタ21兆、2位の三菱UFJ15兆、
3位のみずほFG10兆…
ちなみに、1位のトヨタの簿価ベース資本は9.7兆(2005.9中間)
ですので、PBRの水準は21兆÷9.7兆≒2.16倍といった
ところでしょうか。
簿価の株主資本の2.1倍で、トヨタ株は売買されているわけです。
割高でも割安でもない、良い湯加減の株価、という感じですね。
なお、
好調な企業業績を背景に、日本のデフレ経済脱却への期待のあわられが
直接の原因である、と日経一面は報じています。
ただ、ここで注目すべき周辺の事情として、1面の上部に掲載されている
3つのグラフによる指標も、注目に値するでしょう。
つまり、
「株式持合いの解消による浮動株の増加が、健全な株価形成に寄与」し、
「株式の売買手数料の自由化により、取引コストが激安となり、個人投資家
を多く株式市場に呼び込むことが可能に」なるとともに、
「不良債権処理が進み、足かせだった金融不安が大幅に緩和」されたことが、
そろって現在の好調な株式市場を側面から支えているのですね。
ここで、あることに気付いたでしょうか。
「株式の持ち合い=閉鎖的・固定的」→「持ち合い解消→開放的・自由」
「手数料の固定=コスト高」→「手数料の自由化=コスト削減」
「不良資産の存在=企業体質の足かせ」→「不良資産処理=自由度のきく体質」
キーワードは、「固定・閉鎖」と「開放・自由」です。
そして、主語は「株式市場が」、
述語は「より自由度を増した」
じゃあ、主語を変えてみたら?
主語は「A社が」、
述語は「より自由度を増した」
…いかがですか?
大状況(マクロ)は、中状況(業界)と小状況(企業単位)を規定します。
大状況(マクロ的視点)で起きていることのケーススタディーは、
そのまま中状況(業界)と小状況(企業)でもお手本となります。
このように言うと、下記のような答えが時々返ってきます。
「いやあ、うちの業界は、特殊だから…」
固定的・閉鎖的な経営者にみられる回答パターンですね。
「ならば、平均的な業種ってどんなものなのか、例を挙げて、述べて下さい」
といいたくなりますよね。
だいたい、すべての業種の社長さんで、
自分の経験しか信じない方は、ほぼ例外なく上記のようにおっしゃりますので、
その言葉が本当ならば、この世は特殊な業界だらけというわけです。
すごいなあ~(笑)
…固定的な観点にしがみついている方は、自分のところは特別だと思いたい。
でもそれは幻想です。
考えることから逃げているだけ。
個々の特殊性(?)を数多く分析して、その中から共通する基本原理を汲取り、
柔軟に自分の活動に取り入れていく思考こそが、これからの日本で
求められているはずです。
だいたい、「少子化」=「経済の衰退」なんていう、短絡的な発想すら、
私はまったく信じていません。
そんなワンパターンなことばっかりいっていないで、
どんどん工夫しましょう。
たとえば、日本一国で人口減でも、おとなりのアジア諸国まで入れたら、
アジア全体としては人口がどんどん増えているらしいですよ。
だったら、アジアベースでものを考えればいい。
一部の方たちは、いつまで鎖国的固定観念に縛られているんでしょうか。
もう21世紀なのに…
いや、誰とは言いません、私は天邪鬼なので、常に反対したがりなんです。
まるで「人間野党」ですね(笑)。
…話がとてもそれてしまいました。
ともあれ、「21世紀初頭の株式市場」という一つの歴史的事実を
振り返ると、
「固定・封鎖よりも開放・自由・不良資産処理」の姿勢が、
企業経済に極めて良好なインパクトを与える、ということはもはや明白です。
これを教訓とし、
「自分の業界」や「わが社」に当てはめて、さっそく対応するという、
柔軟で決断力のあるトップが、多く世に出て欲しいな、と思います。
あなたが経営者なら、まずは「大状況に学んで自社の経営に取り入れる」、
ぜひ、実行してみてください。
時代の流れは、待ってくれません。
どんどん視野を広げて、世の中の時流に合った経営をしていきたいですね。