マイナス金利が、退職給付会計に影響?

企業会計基準委員会(ASBJ)は、日銀によるマイナス金利導入を受け、退職給付会計を適用する際の割引率の計算に、マイナス金利を認めるかどうか検討するそうです。

こんなところにも、マイナス金利が影響するのですね。

ここで「退職給付会計とは何か」について簡単にご説明いたします。

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【退職給付会計】
期末時点で在籍している従業員が将来辞めたときに支払うであろう「退職金の企業負担額」を、一定の計算によって見積もり計算する会計手続のこと。

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以上の説明は、きわめてシンプルに書かれています。
シンプルすぎて、かえって分かりづらいですね。

その理由は、そもそも退職金がどうやって支払われるか、という仕組みの理解がなかなかできないのと、出てくる用語が一部専門的でわからない、という2点に集約されると思います。

そこで、退職給付に係るしくみのさわりをちょっとお話ししますね。

従業員が辞めるときに支払う退職金は、ときとして一人当たり1000万円を超えるなど、それなりに負担が大きいです。

たとえば、入社から10年後に退職すると仮定し、10年後に500万円支給する予定だったとしましょう。

一年あたりの平均額を単純に計算すると、

500万円÷10年=50万円/年です。
ここまではいいですね。

つぎに、入社から一年が経ちました。

入社2年目の期首(スタート時点)から退職予定日まで、あと残存期間が9年となります。

そこで、1年間勤務したため、単純計算で50万円の退職給付予定額が発生したと考えましょう。

たとえば、勤務期間が1年増えることで発生する退職給付の費用を「勤務費用」といいます。

これが退職給付会計のすべてのベースとなる要素です。

そして、2年たって3年目の期首になれば、もちろんさらに50万円が追加され、2年累計で100万円になりますね。

このようにして、各年度で単純に50万円ずつ、退職給付の予定額を積み上げていけば、10年後にはちょうど500万円になり、支給予定額に達します。

ちなみに、将来の退職金支給予定額を退職給付債務といいます。

個別決算では、バランスシートで「退職給付引当金」と表記されます。

連結決算では「退職給付に係る債務」と表記されます。

ちょっと表記方法が異なるのですね。

(表記例)
個別決算における退職給付の未払い債務
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【バランスシート(2年目期首) (単位:万円)】

 (資産)  |      (負債)
  :   |退職給付引当金  50?(割引前)
  :   |   :
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ここで、「50?(※割引前)」と書いたのには、理由があります。

たとえば、入社一年後(2年目期首)時点では、退職予定日まで、あと9年ですね。

一年間の勤務で50万円の退職給付予定額が、発生したことはわかりましたが、そのまま単純に50万円とバランスシートに表記することができない事情があります。

9年後に50万円支払うとは言っても、そのお金を今からタンス預金しておくわけではなく、企業としては、なんらかの手段で運用して、ある程度の利益を稼ぐはずだろう、という想定がされるのですね。

そのさい、利回りのいい事業に投資することもあるかもしれませんが、それはリスクが高いため、あくまで会計上の仮定ですが、ここは安定的な投資資産に運用したと考えて利回りを検討します。

例としては、国債などの債券利回りなどが安定投資として考えられます。

たとえば、3%の安定投資利回りの債券があったとしましょう。

合理的な企業としては、タンス預金で9年後も同じ金額でしか運用しないという選択肢はありえず、おそらく3%の債券に預けて、すこしでも有利な運用をするはずだと考えます。

そこで、9年後に50万円になるよう、今から3%の債券に預けたと仮定すると、今、いくら必要でしょうか。
計算方法:50万円(9年後の支払い額)を1.03で9回割ります。

50万円
÷1.03÷1.03÷1.03÷1.03÷1.03÷1.03÷1.03÷1.03÷1.03
=約38.3万円になりますね。

見方を変えると、38.3万円×1.03の9乗=50万円です。

複利計算で預けた元本が増えるのです。

このような場合、「割引率3%の世界で、9年後の50万円の現在価値は
38.3万円である」といいます。

今、38.3万円を用意して、安定的に年3%で運用すれば、9年後は50万円に成長する、ということですね。

この考えをつかって退職給付債務を計算します。

したがって、現在価値ベースで算定した、会計基準が要求する開示方法を上記の事例で示すと・・・
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【バランスシート(2年目期首) (単位:万円)】

 (資産)  |      (負債)
  :   |退職給付引当金  38.3←割引現在地
  :   |   :
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このようになります。

ここで、割引率が3%のようにプラスであることが普通なので、9年後の50万円を3%で割引調整した額が、現在価値で38.3万円になることに違和感はありません。

ところが、マイナス金利で、たとえばマイナス1%とかいわれると、こんどは9年後の50万円に対する現在価値計算が、

50万円÷(1-0.01)=50万円÷(0.99の9乗)

みたいなことになって、かえって現在価値が膨らんで変なことになりますね、ということを新聞では指摘されているのです。

ちなみに、計算してみると約54.7万円になります。

この状況だと、わざわざ減ってしまう資産に預けて運用する、という選択肢がいかがなものか、という突っ込みも入りますが…

なので、この場合、ゼロを加減として計算させるかどうか、みたいな議論にもなります。

マイナス金利政策が、会計処理にも影響しかねない、というお話しでした。

(日経16*3*4*17)

柴山式簿記講座受講生 合格者インタビュー
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