パナソニックが事業部別に資本コスト管理(日経15*3*11*15)

この4月から、パナソニックが資本コストを上回る利益を上げているかを測定する経営指標として「キャピタル・コスト・マネジメント(CCM)」の運用を見直し、事業部ごとに管理する体制とするそうです。

従来は、各事業部の業績管理をする際の資本コストとなる期待収益率が一定だったそうですが、それを事業部ごとに定めるということです。

具体的には、全社一律で8.4%だった期待収益率を9%に引き上げ、4月から43ある事業部ごとにレートを変えるようになります。

その範囲は4~16%と報じられています。

この日の紙面を見ると、パナソニックのCCMのイメージが出ています。

事業利益(※1)-投下資産コスト(※2)=CCM

(※1)事業利益:営業利益+受取配当金-支払利息
(※2)投下資産コスト:事業への投資額×期待収益率

なお、ここでいう投下資産という用語について一言。

本来の会計理論的な意味からすると、資金の調達面についてのコスト(資金提供者への報酬)を語っているので、「投下資本」とすべきところですが、貸借平均の原理から、数字的にはどちらでもいいじゃん、ということなのでしょうか。
(最初は「投下資本」の誤植かとも思いましたが…)

細かい話ですが、「資産」という言葉の意味から見て、「資産」から生じるのは、その運用に伴う支出ですから、維持管理コストと払出コストと減損コストのはずです。

したがって、私のもつ感覚からすると、もとより資金提供者への報酬という意味での支払利子や配当などの「コスト」は、資産からは発生しません。
バランスシートの調達面(貸方)に存在する負債や資本から発生する、というのが一般的発想だと思います。

だから、この命名を、あのパナソニック(会計士なども多数いるはず…)が本当にしているのかな、と少々疑問が持たれますが…。

あるいは、日経の記者の方の聞き間違え、とか?

いやいや、わたしの認識のズレがどこかにあるのかも…
(…まあ、ここでは細かい話は気にしなくてもいいか!?)

こういった違和感はともかく、今回のCCMなる指標の本質は「残余利益(ざんよりえき)」というものだと思います。

残余利益とは、利益から資本コストを引いた残り、という意味です。

なお、残余利益で有名なものに経済的付加価値(EVA)というものがあります。

米国のコンサルタント会社スターン・スチュワート社が開発した経営指標です。

たとえば、ある商売をするのに銀行からの借り入れと株主からの出資を受けたとして、それらの年間のコスト(利払いなど)を10だったとしましょう。

この商売における資金調達のコスト率(利率みたいなもの)を、仮に10%とすると、資本調達額の合計は100と考えられます。

つぎに、この商売から得られる利益を50だったとします。

そうすると、この商売の残余利益は、50-10=40となります。

残余利益は、株主や銀行に支払うべき資本コストを上回る利益です。

これが大きければ大きいほど、株主はよろこびます。

なぜなら、この超過利益は、株主が手にするプレミアム部分だからです。

そうです。残余利益は自己資本を提供する株主の視点で、企業の価値を評価する概念なのですね。

というわけで、パナソニックが事業部別にこの残余利益の考え方をもちいるということは、あたかもパナソニックの本社あるいは管理本部のようなところが株主のごとく振る舞い、各事業部へ資本を投下し、期待収益率(ここでいう資本コスト)をどれだけ上回るかをチェックしましょう、というお話だと思われます。

この場合は、管理本部の立場にあるところが株主の視点で、各事業部がそれぞれ一つの会社のごとく評価される、というイメージなのではないでしょうか。

なかなか面白い視点だと思います。

これは、飲食店その他の店舗を複数経営しているようなところでも応用できそうな経営手法ですね。

柴山式簿記講座受講生 合格者インタビュー
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