LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)がやらせ?(日経12*7*7*1)

LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)は、主要銀行が短期市場で資金を貸し借りするときの基準となる金利です。

London Inter-Bank Offered Rateの略語です。

7月7日の日経朝刊トップは、この金利が形成される過程において、深刻かつ大規模な不正がおこなわれていた可能性を示唆しています。

建設業界に言う「談合」と本質的には似たところがあると思います。

「密室で形成される時価」は、やっぱり多くの場合あやしさが漂いますよ、という教訓とも受け取れます。

LIBORは、日商1級を勉強している方なら、デリバティブ、特に金利スワップのあたりで問題文などによく登場します。

遠く日本の簿記の教科書にもでるくらい、世界的な金融取引に多大な影響を与えている重要指標なのですね。

LIBORが成立する過程について、同紙面で解説してありましたが、たとえば英ポンド建ての銀行間短期金利を算定する場合、大手16行が取引金利を英国銀行協会に申告します。

それを受けて、上位4行と下位4行を除外して、間の8行の平均でLIBORが決まる、というしくみになっているようですね。

日によっては、ある銀行の申告金利がLIBORの算定に関与したりしなかったりしますので、必ずしも一行の影響力が絶対とは言えませんが、集計元の出方いかんでは、当然、参加者の自主申告による金利水準の報告内容に影響を及ぼす可能性があると思えるところが、悩ましいですね。

金利というのは資金の貸し借りにおける値段のようなものです。

金利が上がれば、「借りる人が多くて、貸し手がいない」、
金利が下がれば、「貸す人が多くて、借り手がいない」、
という状況を人々は予想するわけですね。

この点、金利を高めに申告する場合と、金利を低めに申告する場合の背景にある意図が、それぞれ違ってきます。

7月7日で触れている内容には、この2つの側面を興味深く語ってくれています。

1.2005年以降、バークレイズでは担当者が意図的に高めの金利を伝えてLIBORをつりあげ、デリバティブなどの運用益をせしめていた。

2.2008年のリーマンショック以降、自身の信用力を維持するため、本当はもう少し高い金利を払わないと資金調達できなかったのに、その実態を隠すために低めの金利を申告していたということです。

ちなみに、資金調達側の立場で金利が上がるのは、「借りたいのに十分借りられないから金利上昇」となるので、借りる側の信用に問題があるのでは?みたいに見られる可能性が高い、ということにつながりますね。

これに、英イングランド銀行の副総裁が金利操作に関与した疑いが報じられたため、事態が深刻化・拡大化していった印象です。

胴元の立場としては、市場の混乱は避けたいでしょうから、鎮静化をはかるためにある方向にむけた「自主申告」の誘導ともとれる関与をする可能性は、十分にありえると思います。

はなしはとつぜん身近になりますが、公共投資の建設受注における談合だって、本質的に似たような構図ですよね。

「ガチで入札すると、とんでもない安値になって建設価格が混乱するから、利益を確保するために、今回はA社さんでいきましょうか?つぎは、これこれの価格で、うちに調整させてくださいね~」みたいな。

ガチンコ勝負で値段を決めるから価格形成上の客観性が保たれる(時として混乱もありますが)のであって、ほんらいはガチンコ勝負すべき当事者同士で話し合いしちゃったら、ときどきサッカーで問題になる八百長試合と同じ状況になります。
LIBORに関する今回の問題も、根っこはおなじだと思います。

ゲーム理論のよい事例集が一つ、加わった感じです。

相撲の八百長問題、建設の談合問題、プロ野球やサッカーなどの八百長問題
などなど…

これに、LIBORの不正金利操作問題が加わるわけです。

どこかの大学のゲーム理論講義で、喜んで採用されそうです。

「相手を裏切れない長期的関係」
「密室での取引」
「全体最適とは異なる個の動機」
「相手の出方により、自己の利益が変わる状況」

こういったもろもろの条件がそろうと、どの局面でも、社会全体の利益をそこなってでも、ある種の「協調的な行動」が誘発されてしまいます。

八百長とか談合とかやらせとか、はた目には「ガチンコ」と思わせておいて、実は筋書き通り…なんてこと、けっこう世の中にあったりします。

ちなみに、日本でもLIBORに類する金利がありますね。

TIBOR(東京銀行間取引金利)という、最初の一文字をのぞいたら同じじゃん、みたいな突っ込みがはいりそうな指標があります。

まあ、いいお手本なら、どんどん参考にしても良いと思いますけれど。

しかし、システムの模倣はまだいいにしても、まさか不正のやり方はパクッてませんよね、みたいな目で見られないよう、こちらはこちらで不正防止策を世間に
アピールしなければなりません。

市場価格の形成は、「クリーンで公平なイメージ」が大大前提です。

これがくずれたら、だれもその市場を信用しなくなり、ひいては市場取引が崩壊します。
でも、裏で「その情報を知っている人、操れる人」にとっては、打ち出の小づちになりえる話で、こっそり自分だけ…みたいに考える輩が出てくるのが世間の人情ってところでしょうか。

水は低き所に流れるものですから…

いずれにせよ、困ったことではあります。

一度揺らいだ信頼を回復するには、多くの努力とエネルギーを費やしますから。

LIBORだけでなく、金融取引の公正性は、今後も厳しい目で維持させる努力を続けざるをえませんね。

柴山式簿記講座受講生 合格者インタビュー
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