武田薬品、移転価格取り消しで571億円の還付(日経12*4*7*9)

武田薬品工業は、4月6日に、
「移転価格税制に基づく更正処分にかかる異議決定について」
という見出しのニュースリリースを発表しました。

http://www.takeda.co.jp/press/article_49352.html

久しぶりにでた、移転価格税制がらみの大きなニュースです。

国際取引が活発になった昨今、税務調査の対象も海外取引や海外拠点など、広範囲になってきています。

【基礎知識】移転価格税制とは

「タックスヘイブン税制」と同じく、所得を他の国に移転させ、国内での納税額を低く抑えようとする行為を規制するために作られた制度の一つです。

良く見られるパターンは、親子会社間での取引価格の調整ですね。

日本国内の親会社をA社、海外子会社をB社とします。

グループ内の企業間で行われる取引ならば、独立企業間での取引と違い、
身内同士なので価格を意識して高めに設定したり、低めに設定したりすることができます。

たとえば、海外子会社B社から親会社A社が商品を買う際に、一般的な取引相場の値段よりも高く購入すれば、A社の仕入れ原価がはね上がり、もちろん粗利も減ります。

その結果、A社の国内における確定申告上、所得を減らすことになるので、税額も目減りする、というわけです。

その分、海外子会社の利益が上がりますが…。

税率の低い国、あるいは制度上、納税額の低い国のグループ会社に多くの所得が計上されるように「所得の付け替え」が意図的に行われたとき、2国間の課税関係がゆがめられます。

その動機がなんであれ、「所得を奪われた国」の税務当局がそれを否認しにかかるのは自明です。

価格操作により、国際間の所得の恣意的な移転を食い止めよう、というのが移転価格税制の趣旨です。

なお、親会社Aから海外子会社Bに商品を売る時、親会社Aの所得(利益)を低く抑えようと思ったら、相場よりも安い値段で売れば、粗利が低くなります。

武田薬品が問題になったのは、海外への部品供給にかかわる税務否認ですので、どうも海外への部品供給価格が相場よりも安すぎた?と疑念を抱かれたのでしょう。

「当社は、TAP社との間の2000年3月期から2005年3月期の6年間の製品供給取引等に関して、米国市場から得られる利益が当社およびTAP社間において当社に対して過少に配分されているとの判断のもと、2006年6月に大阪国税局から移転価格税制に基づく更正処分を受けました。
本更正処分による地方税を含めた追徴税額は571億円であり、当社は2006年7月にその全額を納付しています。」
(武田薬品ニュースリリースより)

構成処分を受けた所得額は、なんと1,223億円!これに対する追徴税額が571億円ですから、他の税務調査における更生額と比べて、国際税制関連の場合は、金額規模の桁が違います。

ちなみに、いったん支払った追徴税額571億円は、損益計算書の費用として表示されます。

具体的には、損益計算書の下の方、「税金等調整前当期純利益」のすぐしたにある「法人税、住民税及び事業税」という表示科目のすぐ下にかかれるのが原則です。

名称は、「追徴法人税等」などの名称を使ったりします。

ちなみに、2007年3月期の武田薬品の連結損益計算書では、
「過年度法人税等57,080百万円」と表示されていました。

しかし、このうち約8割に当たる455億円の税金費用が減り、さらに還付加算金116億円が特別利益として計上されるようで、結果として571億円が還付される、ということです。

追徴税額が571億円で、還付も571億円と、ちょっとややこしいお話ですが、ともあれ、国税局がこれだけ大幅に意義を認めて還付すると言うのは、
そうめったにあることではないでしょう。

そういえば、2008年にはホンダが中国四輪事業に関連して、東京国税局から1400億円を超える申告漏れを指摘されたことがありました。

本メルマガでもとりあげましたが、移転価格税制がらみは、ほんとうに金額規模が桁違いですよね。

移転価格税制は、いわば「当事者が属する2国間の所得の奪い合い」みたいな側面があります。

中小企業もどんどん海外に進出している昨今の状況を考えると、国際税制リスクは、今後ますます高まっていくのだと思います。

柴山式簿記講座受講生 合格者インタビュー
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